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柿の木のご縁 -地域の産物を使ってブランドをつくる-

小林味愛(株式会社陽と人代表)
×暮部達夫さん(アルデバラン株式会社代表)

「地域の産物を使ってブランドをつくる」

 

株式会社陽と人代表の小林味愛による対談「柿の木のご縁」。『明日 わたしは柿の木にのぼる』の製品の製造を依頼しているアルデバラン株式会社代表の暮部達夫さんにお話をお伺いしました。

アルデバラン株式会社は1993年の創業時から(当時の社名は株式会社クレべコスメティックス)自然派化粧品の開発を行なっており、植物の力を見極め、その力を生かした化粧品づくりを得意とされています。さらに暮部さんは国産ワイルドクラフトコスメブランド『QUON』を展開する株式会社クレコスにて、障がいをもつ方の雇用と自立支援、地域の活性化、森林保護を目的とした間伐材の利用、耕作放棄地の再生利用など、社会事業と営利事業を一体化した「クオンプロダクツファーム」という独自の取り組みを推進。「地域の産物を使ってブランドをつくる」をテーマに、対話を進めていきました。

 

地域の産物を用いてコスメをつくる理由


小林:『明日 わたしは柿の木にのぼる』では、大変お世話になり、ありがとうございました。発売早々、ご購入いただいたお客さまからも嬉しいお声が数多く届いています。アルデバラン株式会社では弊社のブランド以外にも、さまざまな地域の産物を使ったコスメブランドのOEMを請け負っていらっしゃいますよね。

 

暮部:ええ、地域コスメはその地域がどうなりたいかを実現するためのツールだと思っています。地域によってコスメブランドをつくりたい理由は違うんですよ。だから最初に「なぜ化粧品をつくりたいのですか」と、とことん掘り下げることが大事なんですね。僕らは地域が求める価値を、化粧品で表現していくんです。

 

小林:『明日 わたしは柿の木にのぼる』の製品は、福島県国見町でつくられるあんぽ柿の製造工程で廃棄されていた柿の皮を原料にしていますが、どのような素材が化粧品に向いているのですか?

 

暮部:化粧品は植物との親和性が高いんです。極論ですが、地球上のあらゆる植物から化粧品がつくれますよ。植物がもつ力の面から考えると、柿の皮から抽出したカキ果皮エキスには、高い消臭・抗菌効果のあるポリフェノールが含まれているので、デリケートゾーンケアに最適な原料だといえます。

 

小林:「フェミニン ミスト」、「フェミニン ソープ」の消臭試験では、10分後、30分後も継続して消臭成分低減効果が確認されています。個人的な使用感としても、満足のいく効果が実感できました。

 

地域や社会が抱える課題の解決と経済活動を両立させる


小林:暮部さんは株式会社クレコスで、福祉雇用や耕作放棄地の再生利用などに焦点を当てた「クオンプロダクツファーム」という活動を行なっていますよね。社会課題の解決に取り組むようになったきっかけをお聞かせください。

 

暮部:株式会社クレコスは1994年の創業時から、さまざまな社会活動を行なってきました。障がい者支援に関しては、新潟県のとある障がい者支援施設と出会い、一緒にファブリックスプレーを開発したたことがひとつの契機になっています。そのファブリックスプレーはとても評判がよく、そのうち全国各地の障が者支援施設のブランディングのお手伝いなどをするようになったんですね。そんな中で起こったのが、東日本大地震でした。

 

小林:忘れもしません、2011年3月11日。東日本の各地が想像を絶するほど大きな被害を受けた、未曾有の災害です……。株式会社陽と人が本社を構える国見町も、甚大な被害を受けました。

 

暮部:大きな災害が起きると、人員やお金をはじめとするあらゆるリソースが集中するんです。もちろん支援するのは当然ですし、サポートしていかなければなりません。ただその反面、そこに支援が流れると、寄付で成り立っていた障がい者支援施設や障がい者を支援する団体は、立ちいかなくなってしまうケースが出てくる。いや、現に困っている施設や団体がたくさんあったんです。
そこで考えたのが、社会事業と営利事業を一体化した仕組みづくりでした。会社としての事業の中に、寄付やボランティアという要素を組み込んでしまおうと。

 

小林:CSV(Creating Shared Value)的な考えですね。

 

暮部:そう、「パッケージをつくってください」、「化粧品づくりで使用する蒸留水を、植物から抽出してください」など、僕らの事業のパートナーとして福祉作業所に仕事を依頼するんです。農家さんと連携した、耕作放棄地を再生利用する取り組みも同様。化粧品の成分に使用する原料を栽培してもらっているんですよ。

そうすれば僕らが化粧品を続けていく限り、彼らが簡単に困ることはない。僕らがきっちりお金を落とすことで、福祉作業所で働く方々により多くの賃金を支払えますし、農地再生によって地域をよりよくしていただくこともできるばずです。僕らがそれを励みに事業を拡大していけばいくほど、彼らの利益も増えていくというサスティナブルな仕組みなんですよ。

 

小林:暮部さんの会社に『明日 わたしは柿の木にのぼる』の製品の製造をお願いしたポイントはそこなんですよ。社会課題の解決と経済活動を両立させる。それは株式会社陽と人の活動と同じ考えなんです。暮部さんたちとなら、想いを共有しながら一緒にものづくりを行なっていけると感じました。

「地域でコスメをつくる」という文脈では、地域にお金を落とし、地域の課題解決に結びつけることが非常に重要です。国見町の課題は「農家の高齢化や人手不足によって廃棄されていた柿の皮を、どうやって生かしていくか」ということでした。柿の皮を活用したプロダクトをつくり、地域にお金が落ちてこそ、課題の解決になります。課題をどう捉えるかは、それぞれの地域次第ですね。

 

新たな価値観を醸成していく


小林:暮部さんが携わったブランドの中で、コスメをつくる前と後で大きく変化した地域はありますか?

 

暮部:どの地域も何かしら変化はありますよ。たとえば安全な食べ物の生産を通してエコロジカルな町づくりを目指す愛媛県明浜町の運動体「無茶々園」は、この土地で栽培された柑橘類を使ってつくるスキンケアブランド『yaetoco』を発表したことで、デザインに対する意識がガラリと変わりました。「無茶々園」はみかんを中心とした柑橘類の有機栽培やそれらを用いた加工品の製造販売などを行なっているのですが、品質の素晴らしさに反して、「気の利いたパッケージ」とは言い難かったんですね。

でもプロのデザイナーやカメラマンがヴィジュアル周りを手掛けた『yaetoco』が、数々のメディアに取り上げられ、売り上げを伸ばしていくとともに、デザインの重要性にも気がついていったんです。そこから彼らは自主的にジュースのパッケージなどのリニューアルを行い、売れ行きも好調のようですよ。本質とは違うかもしれませんが、「デザインで世の中は動くんだ」と感じるほど、衝撃な出来事だったんだと思います。

 

小林:コスメブランドの商品開発を通じて、地域に新しい価値観が生まれたのでしょうね。

 

暮部:そうですね。小林さんは『明日 わたしは柿の木にのぼる』の製品の材料として、国見町の産物を使うということに対し、どのような意義を感じていますか?

 

小林:『明日 わたしは柿の木にのぼる』では、福島県の特産品であるあんぽ柿の製造工程で破棄されていた柿の皮を使用しています。あんぽ柿は皮を剥いた柿を硫黄燻蒸し、乾燥させてつくられる干し柿の一種。トロリとした濃密な甘さと半生のしっとりした食感が特徴で、とっても美味しいんですよ。だけどあんぽ柿のことを知らない人はたくさんいます。『明日 わたしは柿の木にのぼる』を通じてあんぽ柿についても紹介していますから、コスメという新しい切り口からあんぽ柿を知ってもらえる。結果的に「福島県国見町はあんぽ柿の産地なんだ」と認知してもらえる機会が増えたんです。

 

福島県の特産品 -あんぽ柿-

 

暮部:なるほど。ブランドをスタートアップすることでの変化は確かにありますし、いろいろな効果があります。そのうえで、やはり事業をスケールさせることが大切なんですよね。売れるだけがゴールではない。とはいえある程度売れていかないと、地域は変わらないんですよ。「売れる仕組みづくり」は直近の自分のテーマとして、いままさに取り組んでいるところです。

 

小林:暮部さんがお考えになる、地域発のコスメが“売れる”ために必要なことは?

 

暮部:マーケットインの発想だと思います。みんながどういうベネフィットを求めているのか、そこに一度目を向ける。地域の方々も「化粧品のことは全く知らないんです」ではなくて、自分たちもマーケットを理解しておく必要がありますね。そうしないとマーケットと温度差が生じてしまうんです。『明日 わたしは柿の木にのぼる』はその点からみても、とても分かりやすい。“柿の皮から抽出した消臭成分”、“デリケートゾーンケア”など、消費者に伝わりやすいですし、時代のニーズとしていままさに必要とされているアイテムだと感じています。

 

小林:私は女性が1日の中で1分でも10秒でもいいから、自分の体調やカラダを見つめなおせるライフスタイルが大切だと考えています。それはきっと、女性が自分自身で人生を選ぶ生き方に繋がっていく。その思いをデリケートゾーンケアアイテムの『明日 わたしは柿の木にのぼる』というカタチで、表現することができました。暮部さんには、これからもお力添えをいただけましたら幸いです。本日はありがとうございました。

 

 

暮部達夫(くれべ たつお)

アルデバラン株式会社代表取締役/株式会社クレコス代表取締役

1972年奈良県奈良市生まれ。大学在学中より株式会社クレコスの仕事に携わり、現在日本における天然原料による化粧品開発の第一人者として活動。『QUON』(奈良県・奈良市)、『yaetoco』(愛媛県・明浜町)、『rosa rugosa』(北海道・浦幌町)、『NALUQ』(北海道・下川町)など、数多くのオーガニックコスメブランドのブランディングを手掛けている。2018年より佐賀県唐津市にて、農産物の原料化から製品化までを一括して行える化粧品製造工場「KARATSU COSMETIC FACTORY(FACTO)」の運営をスタート。
www.alde-baran.co.jp
www.crecos.co.jp

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