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柿の木便り
菌が住んでいる! デリケートゾーンは「自分の心とカラダを知る」バロメーター(前編)
自分の心とカラダを健やかに保つために、“デリケートゾーンのケアが大事”。そう言われてもピンとこないかもしれません。それでも、においやおりもの、かゆみなど、デリケートゾーンに悩みを持った経験がある人も少なくないはず。
女性のカラダにとってデリケートゾーンってどんなところ? においやかゆみなどの症状が出てしまうのはどうして?
「明日 わたしは柿の木にのぼる」のWEB MAGAZINE、「柿の木便り」編集部は、産婦人科医・広尾レディースの宗田聡院長を訪ねました。
デリケートゾーンには生き物が住んでいる!
−そもそも自分のカラダ、特にデリケートゾーンについてよく知らない人も多いと思います。
宗田:そうなんですよ。みなさん、デリケートゾーンに微生物が住んでいることを知っていますか?
女性のカラダは、膣を入り口にして、子宮を経て卵管を通って、お腹の中へ、外とつながっています。デリケートゾーンは外からの雑菌をカラダに取り入れやすい場所でもあるんですね。
そこで活躍しているのが、微生物=菌です。デリケートゾーンには、主にカンジダなどカビ系の真菌とさまざまな細菌が常に住んでいます。これらの菌が膣内でバランスを保って調和していることで、女性のカラダを守っているんです。
−雑菌から守るためにデリケートゾーンに菌が住んでいる! 「カンジダ」など菌にはよくないイメージがあるのですが……。
宗田:カンジダが問題になるのは、繁殖して菌のバランスが崩れてしまったとき。薬で治療をしても菌自体はいなくならないし、むしろ女性のデリケートゾーンに必要な存在なんです。
におい、かゆみ、おりもの異常が起きるのはどうして?
−クリニックに訪れる方で、デリケートゾーンの悩みはどんなものが多いですか?
宗田:クリニックには、おりものの量が多い、においが気になる、色が変、デリケートゾーンがかゆい、痛いといった悩みを持つ人が毎日のようにやってきます。ちなみに黒ずみやかたちなどに悩む人は美容クリニックへ行くケースが多いと思います。
−なるほど。におったり、かゆくなったり、おりものがいつもと違ったり。デリケートゾーンのトラブルはどうして起きるんですか?
宗田:デリケートゾーンのトラブル=性病と考えがちなんですが、必ずしもそうじゃないんですよ。性病というのは、「梅毒」、「クラミジア」、「淋病」など、セックスによってうつるものですが、実はにおいや色の変化などわかりやすい症状のないことが多いのです。
おりものの異常やかゆみが症状として出た場合は、むしろ自分のカラダにもともといる膣内の菌のバランスが崩れてしまっていることのほうが多いんです。
−デリケートゾーンに住んでいる菌のバランスが大事なんですね! どうして菌のバランスは崩れてしまうんですか?
宗田:主な要因は免疫力の低下。寝不足やいい加減な食事、無理をして体力が落ちて心とカラダが疲れを感じると、真菌と細菌どちらかの菌が大量に発生したり、雑菌が増えたりして、バランスが崩れていきます。それがおりものの異常やかゆみなど、デリケートゾーンに症状としてあらわれるんですね。
だから、デリケートゾーンは「自分の心とカラダを知るバロメーター」でもあるんです。
デリケートゾーンに症状が出たら、病気を疑う前に、自分の体調、健康、ライフスタイルを振り返ってみるといいですよ。デリケートゾーンの変化に気づくことで、自分の生活を見直すことができれば、トラブルや病気の予防にもつながると思います。
デリケートゾーンのトラブル、どうしたらいいの?
−実際に、デリケートゾーンにトラブルが出てしまったら、どうすればいいんですか?
宗田:産婦人科やレディースクリニックを受診してもらえれば、原因がなんなのか?性病は本当にないのか?など調べたうえで、必要があれば薬を処方してもらえます。
症状や治療法は、もともとデリケートゾーンにいる真菌と細菌のどちらかが増えるかによって異なります。
カビ系の真菌は、かゆい、痛いなどの症状があります。真菌の一種である「カンジダ」は、ものすごくかゆくなり、白いカッテージチーズのようなボロボロしたおりものが出てきます。真菌は弱い生き物ですが、抗生剤で殺すことはできません。水虫と同じように、薬(抗真菌薬)を処方しても治療には1ヶ月ほどかかりますよ。
細菌は、一概には言えないのですが、生臭い魚のような匂いになるケースが多いです。細菌の治療には抗生剤が使えるので、数日で治ります。ただ抗生剤を使って、細菌を一掃してしまうと、真菌が増えてカンジダを引き起こすケース(混合感染)もあるんです。
薬を使って一時的に菌の繁殖を抑え、菌のバランスを調整して治すことはできますが、完全に死滅することはできません。どちらもデリケートゾーンに常にいる菌ですので、根本的な問題を解決しないとまたバランスが崩れて、なんどもトラブルを繰り返す可能性が高いんですね。
−デリケートゾーンにはもともと菌がいること、そしてそのバランスを保つことが大事だということがよくわかりました。
宗田聡先生
医学博士
広尾レディース院長、茨城県立医療大学客員教授、東京慈恵会医科大学産婦人科非常勤講師。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)。日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌やWEBなどで女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、『産後ママの心と体をケアする本』『産後うつ病ガイドブック』『これからはじめる周産期メンタルヘルス』『31歳からの子宮の教科書』など。