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柿の木便り
すべての出会いを大切に、人生の「フライト」の瞬間をサポートする
心とカラダ、仕事と暮らし、社会と自分。今を生きるあの人は、なにを軸にして、どんなやり方で“バランス”を保っているのだろう。気になる女性に「わたしのバランス」について聞く連載。
今回お話を聞いたのは、客室乗務員専用情報共有サイトCREW WORLDの運営と、CAのセカンドキャリア支援をしている株式会社KoLabo代表、駒崎クララさん。女子未来大学ファウンダーや、吸収サニタリーショーツ「Period.」のアドバイザーも務めています。
約5年間の航海で学んだ自分の役割
美しい佇まいに背筋が伸びたところで、チャーミングな笑顔でほっと安心させてくれる。「元CAのIT起業家」という肩書きを持ちながらも、気負わずしなやかで自然体。その人柄が、はじめましてであっても会った瞬間から、グッと距離を縮めてくれます。
そんなクララさんの原点となっているのが、5歳から10歳までの「航海」。父と母と家族3人で、途中妹がjoinして4人で32フィートのヨットに乗って約5年間、世界各国に上陸しながら、大西洋から太平洋まで海を渡ってきたのです。
写真提供:駒崎クララ
「暮らしや生活じゃなくて『航海』というのが父のこだわりなんです。航海中、父と私はキャプテンとクルーという関係性で。目的地まで滞りなく安全にたどり着けるよう働くのが私の役割でした。キャプテンに対して、“対等に発言すること”と“指示に従うこと”のバランスが大事なんだって、そのときに学んだ気がしますね」
港に着いたら、大人よりも言語の吸収力が早かったクララさんは、現地の人たちとコミュニケーションを取って仲良くなり、食料を調達するマーケットの情報などを仕入れ、後から船着場につく人にも教えていたそう。
写真提供:駒崎クララ
「数日間船着場に停泊していると、どんどん新しい船が来るんですね。そのときに私、勝手に港を案内したり、気が合いそうな別の船の人を紹介したりしていて。子どもながら、船と船、人と現地のカルチャーを結ぶ役割を意識していたのかもしれないです。
当時はただ楽しくて好きでやっていただけなんですけどね。大人になってから、コミュニケーションパイプとして人と人をつなげていくことは、自分の得意なことなのかなって思うようになりました」
好きで得意なことを活かせる場として選んだのが、CAの仕事。少女が大人になって、舞台は海から空へ。船を模してできたという飛行機のクルーとして、キャプテンと、お客さまが目的地まで安全にたどり着けるよう働き、人とカルチャーを結ぶ役割を果たしてきました。
日本に根を張って、点のコミュニケーションを線で結ぶ
少女時代の5年間の航海を経て、国際線のCAとして7年半。世界中のあらゆる国に降り立って、現地の人と交流してきたクララさんは、ある気づきから、決意を固めます。
「私自身がこれからどこに身を置くかは、自分の心の決めどころ次第だなって思って。というのも、世界中をまわってきて、どの国にも人と自然と建物があって、どの国の人とも仲良くなれるし、どの国でも暮らしていけることがわかったので。そこで、これからは日本に根を張って生きていこうって気持ちの覚悟を決めたんです。その決意が起業のきっかけですね」
「日本に根を張る覚悟」とは、いわく、「点のコミュニケーションを線に変えていくこと」。
「航海でもCAの仕事でも、それまで、点でのコミュニケーションが多かったんですよ。その国にいる一時だけご縁があって、またいつか人生のどこかで会えたらいいねという感じで。CA同士も一緒に目的地までは行くけれど、現地で会うこともなく、また同じ飛行機に乗る機会も少ない。もっと長期的に線で人とコミュニケーションを重ねて、関係性を築いていきたいと思ったんですね」
実際に、クララさんは起業をしてから、CAによるCAのための情報共有サイトを運営することで、点の関係性でしかなかったCA同士を線で結んでいます。さらに、ユーザーヒアリングとしてCAの方々と会うなかで、ライフイベントや怪我を理由にキャリアを断念せざるを得ないことに悩む人が多いことに気づき、CAのセカンドキャリア支援をスタート。
「“職業紹介”ではなく“セカンドキャリア支援”とうたっているのは、職業をゴールにするのではなく、どういうふうに生きたいかを考えて、そこに紐づく職業に就いたり自分で仕事をつくっていくことが大事だと思っているから。ユーザーであるCAの方と一緒に、その魅力を活かせる道を一緒に探っていくことが私たちの仕事だと思っています。企業や人を紹介するときは、お互いにとってプラスになる出会いになることは強く意識していますね。
長期的に伴走している方も多くもいて、彼らが一歩踏み出したり活躍したりすると、ああ、よかったあーって家族のような気持ちで嬉しくなっちゃう!彼らがいるから、私も頑張れるんですよ」
日本に根を張って9年、会社の仲間やユーザーであるCA/元CAの方々と、点ではなく線のコミュニケーションを重ねて、その枠に収まらない関係性を築いています。
写真提供:駒崎クララ
生きるうえで、モチベーションをどう保っているの? 答えのない問いを追い続ける
どういうふうに生きていきたいか。クララさん自身は何を軸に働き暮らしているのでしょう。
「人々のモチベーションに関わることで生きていきたい。それが私の人生の軸ですかね。夢を持ったり、“〜になりたい”と願ったりすることはいいことだと思うんですが、それ自体が目的になると、叶えたときに燃え尽きちゃうじゃないですか。航海をしていた幼い頃から、生きるモチベーションをどう維持していくかが、ずっと気になっていたんです」
生きるうえで、モチベーションをどう保っているのだろう? この問いを持って、CA時代、日本国内にいる時間を使い、経営者から大企業の社員、デザイナー、研究者までありとあらゆる人たちにアポを取ってインタビューをしていたそう。起業する前の3年間でその数は700人を超えたのだとか!
「みなさんに話を聞いてみて、明確な答えを持っていない人ばっかり、ということがわかりました。私自身も今でも答えは持っていないんですよ。それこそ、生きるモチベーションを保つ方法を探していることが、私のモチベーションになっています(笑)」
「モチベーションを保つ」と言っても、常にワクワクして上昇気流に乗っていくことはなかなか難しいのが現実です。
「もちろん心が落ち込んじゃうときがあってもいいと思っていて。私たちが大事にしていることは『Flying is Beautiful』。飛び立とうとしている気持ちが美しい。たとえ今、凹んでいたとしても、いつか飛び立ちたいという思い=モチベーションがあることが大事だと思っているんです」
「何をするか」ではなく、「何をモチベーションとするか」。その軸で、クララさんは、女性が主体性を持って人生を選択するための学びを提供するプラットフォーム「女子未来大学」を開講したり、吸収サニタリーショーツ「Period.」に出資をしたり、活躍の幅を広げ続けています。
「吸収サニタリーショーツはCREW WORLDで紹介されていたので海外から取り寄せて使ってみたら、自分が生理中だということを忘れてしまうほどで。こんなにもに快適に……というより、これまで快適ではなかったことに気づかされました。それで、日本に持って来たいと思って、いろんな人に『これすごいから!』って熱く語ってたら、『同じ熱量の人がいるよ』って紹介してもらったのが、代表の寺尾彩加。彼女と国産でいいものをつくろうと、1年半の開発期間を経て完成し、今も改良を続けています。
吸収サニタリーショーツは、何かに熱中したい人、集中したい人たちの役に立てるだろうなあって。生理中を快適に過ごすためのサポートは、モチベーション維持にもつながると思っているんです」
ルールに自分をはめて、積極的な無の世界へ
会社の仲間とYouTubeチャンネルを開設したり、CAと空間デザインを手がけたり、流れるように、新しいことにも取り組んでいるクララさん。仕事と暮らしのバランスはどう保っているのでしょう。
「仕事とプライベートにそんなにボーダーはないんですね。というのも、友だちが求職者になるかもしれないし、クライアントさんがお友だちになるかもしれない。友人とのつながりから仕事に発展することもあります。だから、線引きはしてないです」
仕事もプライベートも地続きにあるクララさんが唯一意識しているのが、「積極的な無の世界」に入ること。
「会社が危機的な状況になったときとかに、自分が逃げる場所がほしいなって思って、無になる練習はしています。具体的には、お能のお稽古をつけてもらっているんですよ。常に戦のこと考えてしまう武将がお能を通じて積極的に無になっていたと聞いて、わあ、それなら私もやりたい!と思って。お能は、指先や足の裏まで神経を行き届かせていないと演じられないんですね。型や舞に集中していると、仕事やプライベートのこともぜんぶ忘れちゃって、無の世界に身を置けるんです」
お能を選んだのは、日本の伝統文化や規則に強い憧れがあったから。意外にもクララさんはルールにときめきを感じるそう。
「私、ルールがめっちゃ好きなんです。レールにはまってって言われるのが気持ちよくて。私にもはまれるかしら?って楽しくなっちゃう。航海から帰ってきて、小学校4年生から日本の学校に通い始めたんですが、ピシッと整列する姿、ルールや規則にそれはもう感動しちゃって!私自身はルールを守りたくても、知らないうちに犯していることも多いんですけどね(笑)。日本はルールが多いので、最高!」
心とカラダのケアに関しては、よく寝てよく食べることをベースに、自身がやってよかったことを発信し、友人たちからも受信するという循環で、そのときの自分に必要な情報を得て試していると言います。
「最近は、友人に教わって、腸もみ?腸活動を始めたんですが、まだ語れるほどではありません(笑)。生活習慣は、CA時代に比べるとめっちゃ健康的です。当時は韓国に飛んでいたんですけれど、私、辛いものが苦手で、クッキーを食べていたんですよ(笑)
あとは、Period.を始めてから、デリケートゾーンのケアには意識が向くようになりました。というのも、生理をはじめ友人から性の悩みを聞く機会が増えて。生理用パンツだけでなく関連商品を試すなど、経験と知識が深まっていますね」
クララさんはその日の取材のあと、私たちにワクワクするようなご縁をつないでくれました。お茶に誘ってくれてさらに楽しいお話も。取材をお願いした私たちも次第に、仕事とプライベートの境界線が曖昧に。
仕事とプライベートを線引きせず、まるっと「生きること」と捉え、軽やかに点として出会った人と、線で深くつながることを大事にしているクララさん。
出会った人を家族や友達のように大切にして、彼らの人生の「フライト」の瞬間をチャーミングな笑顔を携えて、サポートする。そんな使命のようなものをしなやかにまっとうして生きることが、クララさんの「私のバランス」を自然と生み出しているように感じます。
text by 徳 留里香 photo by 根津 千尋
駒崎 クララ(こまざき くらら)さん
株式会社KoLabo 代表取締役社長 外資航空会社にてCAとして勤務した後、CA口コミサイト『CREW WORLD』の運営のため起業。2018年、同サイトの口コミから吸収サニタリーショーツと出会い、寺尾の思いに共感しPeriodに参画。