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柿の木便り

わたしらしく、あなたらしく。性やカラダのタブーをほぐしていくために(前編)シオリーヌ×中村寛子×小林味愛

性教育、ジェンダー、生理、フェムテック。
これまで社会の中でタブー視されてきたことが少しずつ語られるようになってきました。とはいえ、まだまだ無知や偏見、抵抗感もあるはず。
わたし自身、パートナーや子ども、職場で一緒に働く人たちの「自分らしさ」をうばわないために、何ができるんだろう。
『こどもジェンダー』(ワニブックス刊)を上梓した性教育YouTuberのシオリーヌさんと、fermata(フェルマータ) CCOの中村寛子さん、明日 わたしは柿の木にのぼる代表の小林味愛が語り合い、一緒に考えました。
※中目黒 蔦屋書店で開催されたオンラインイベントの内容をお伝えします。

自分の人生を選びとるために大切な性の知識を

小林味愛:今日はシオリーヌさんの新刊『こどもジェンダー』の出版記念イベントということで、性やカラダを切り口にいろいろお話しできたらと思っています。
シオリーヌ:ありがとうございます〜。
中村寛子:楽しみです。よろしくお願いします!
シオリーヌ:『こどもジェンダー』は、お子さんが抱きそうなジェンダーやセクシュアリティにまつわるモヤモヤに対して、どう考えていったらいいか、相手にどう伝えていったらいいかを提案していく本でして。全編ふりがながあるので、お子さんおひとりでも読めるんですが、ぜひ親御さんに読み聞かせをしてほしいんです。家庭での「性教育」への意識は高まっているけど、親世代も学んでこなかったから、どうしたらいいかわからないことが多くないですか?
小林: 多いです!
シオリーヌ:この本の出発点は、「家庭ではジェンダーに偏りがないように接しているのに、子どもが“女の子だからピンクがいい”とか“男の子だから泣かない”って言うのはどうしてだろう」といった親御さんたちの声なんです。まだまだ社会の中、親御さんやお子さんの中にも、ジェンダーに対する無意識の偏見がある。だからこそ大人も子どもと一緒に考えるきっかけになったらいいなと。っていきなり宣伝タイムになっちゃった(笑)
小林:大事なこと!まさに、やさしい言葉で書かれているんだけど、問いが本質的で、自分が育ってきた環境の中で培ってきた固定観念に改めて気づかされました。
シオリーヌ:嬉しいです。前作の『CHOICE』は中高生向け、今作の『こどもジェンダー』はお子さん向けですが、私の裏テーマはどちらも、性教育を受けていない「大人のみなさん、聞いていますか〜?」なので。子どもに接する大人にこそ、性の知識を学んでほしい。
小林:私たち親世代の間でも、「性教育が大事」という意識は高まっているとは思うんですが、言葉が独り歩きして、人によって定義が違ったりしません?
シオリーヌ:そうですよね。性教育は、「人生を自分で選びとるために大切な性の知識」を得ることだと私は言っていて。生理のしくみと生理用品の選択肢、射精のしくみと正しいマスターベーションのやり方、妊娠のしくみと避妊方法、性的同意、ジェンダーやルッキズム……。こうした性の知識は、自分のカラダや感情、欲求と上手に付き合うために必要なことだし、自分や相手を大切にすることにもつながります。決して恥ずかしいものでもタブーなものでもないし、エロとして消費したり誰かをからかったりするためのものでもない。だからこそ私は、当たり前のように淡々と性の話をYouTubeで発信し、本やイベントで伝えているんですね。




 

小3の頃から生理が来るのが楽しみだった。母のオープンな性教育

小林:そもそもシオリーヌさんが性教育をテーマに発信を始めようと思ったのはどうしてですか?
シオリーヌ:助産師として新卒で産婦人科で働き始めたんですが、多くの女性が妊娠・出産というライフイベントに直面するまで、自分のカラダのしくみを知らないことに驚いたんですね。たとえば、経産婦さんに向けて避妊の講座をしたら、人からちゃんと習ったのは初めてだとおっしゃる。お子さんを3人出産した方が、妊娠は考えてなかったのに4人目ができちゃったってやってくる。本来なら妊娠をする前に、そのしくみを知って、自分のライフプランの手綱を握っておくべきなのに、妊娠・出産してからじゃないと教えてもらえない環境にあるんだなあって。子どものうちから、特に若い世代へ、性の知識を伝える必要性を感じたんですね。
小林:なるほど。
シオリーヌ:もともと学校の先生になりたかったこともあって、子どもの役に立つ仕事がしたいと思っていたんです。自分のやりたいことと助産師としての課題意識が結びついたのが性教育でした。当初はブログやTwitterで発信を始めたんですが、若い世代に届いている実感が得られなくて。YouTubeなら日常の延長線上で若い世代にも届けられるんじゃないかって発信を始めて、今に至ります。
 

 
小林:たしかに、性に関することを学ぶ機会はなかったなと。妊娠してみて、え! そうなの? 知らなかった! ってことが多すぎる。シオリーヌさんはどうやって学んできたんですか?
シオリーヌ:ちゃんと学んだのは助産師学校での授業が初めてでしたけど、家庭での性教育で言えば、母がめちゃくちゃオープンな人だったんですね。小3の頃、休日の昼間に「しおり〜!
今日は生理の話をするからちょっと来て〜」ってリビングに呼ばれて。「生理ってものがあってね、お股から血が出ます、だからパンツにナプキンを貼ってね……」って説明を受けたんです。通販カタログを見て好きな色の生理用パンツを選んで、かわいいポーチに入れたナプキンを渡されて。生理が来るのが楽しみになっちゃっいました。早く使いたいーって。
小林:へええ。生理に対して抵抗とか嫌な感じはなく?
シオリーヌ:なかったですね。というのも、その前から生理の存在は知っていたんです。母はタンポンユーザーだったので、一緒にお風呂に入るとお股から紐が出ていて。気になるじゃないですか。で、これなに?
って聞いたときに、母は隠さず話してくれて。日常生活の中で見聞きして、“生理は大人の証”って思っていたので、楽しみでした。でも私、生理が来たのは中学生の頃で遅かったんです。だからそれまで、ナプキンを持ってトイレに行く同級生を羨望の眼差しで見てましたよ。私も早くあっちの世界に行きたいって(笑)。なので生理が来たときはすぐに母に報告して、一緒にレンチンした赤飯を食べて喜びました。初経の日に母を真似て、タンポンを使いましたからね。抵抗も恐怖心もなく、好奇心で。私からも紐が出たあ!
って興奮しました(笑)。
中村:なんてすてきなお母さま!
小林:日常の中で生理が楽しみになるってすっごくいいですね!


性やカラダのタブーを見つめ直すことから始めよう

小林: シオリーヌさんの生理の話って、まさにfermataさんが理念に掲げる「タブーをワクワクに変える」ことに通じると思うんです。fermataさんが運営するお店「NEW  STAND TOKYO 」は、スタッフのみなさんが当たり前のように、楽しそうに商品を紹介してくれるから、恥ずかしいとかタブーだって感覚がなくなって楽しくなっちゃうんですよね。
 
 
中村:嬉しい〜。ありがとうございます! 私たちのお店ではセクシャルウェルネスの商品も扱っていて。お客さまに「これなんですか?」って聞かれたとき、「女性が女性のために開発したバイブレーターです」って当たり前のように答えるんです。恥ずかしいことでもタブー視することでもないので。こちらがそういう姿勢でいると、お客さんも話していいんだって心を開いてくれるんですよね。 小林:自分のカラダに関するモヤモヤを話していいんだって思える場所があるのは心強いですよね。改めて、fermataさんの取り組みについて教えていただけますか? 中村:はい。私たちfermataは「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」を合言葉に、一人ひとりが抱えている固定観念を解消すべく、女性に向けたウェルネス事業を展開しています。女性を示す「female」と技術の「Technology」を掛け合わせた「Femtech(フェムテック)」の日本市場を開拓していくことをミッションとしていて。一般的にフェムテックは、女性特有の健康課題を解決するテクノロジーを指すことが多いんですが、私たちは女性が自ら課していたり、社会から課されたりしている固定観念をほどき、価値観を変容させていくムーブメントも重要な側面であると考えています。  
 
小林:事業を始めるにあたって、何かきっかけはあったんですか? 中村:私自身、会社員として働いていた20代の頃、キャリアとウェルネスの関係について悩んでいたんです。生理痛が重くて、気を失うレベルで。でも、生理を理由に仕事を休むなんてできないし、「だから女は」って言われるんじゃないかって思っていたんですね。そうやって自分を追い詰めていたら、30歳になったときに倒れちゃって。共同創業者であるAminaに出会って話していたら、自分たちの中にも、社会の中にも、企業の中にも、性やカラダに関するタブーがあるよね、ということに気づいたんです。だったら私たちは、知らず知らずのうちに受け入れていた、性やカラダのタブーを見つめ直すことから始めようと。 小林:タブーを見つめ直す。 中村:私自身もそうでしたが、自分の健康課題に気づいていなかったり、言語化できずに苦しんだりしている方が多いと思うんです。だからモヤモヤを言語化して、自分の悩みや課題に気づいてもらえるように、性やカラダにまつわる話をするイベント「Femtech Fes!」を開催していて。その悩みの解決策になりうる選択肢としてプロダクトやサービスを紹介し、アクセスできるお店やPOPUP を展開しています。今年は、10月22日〜24日に六本木ヒルズで大規模なリアルイベント も行いますよ。  
 
小林:いいですね〜。人と話したり、プロダクトやサービスを知ることで、モヤモヤしていたのは自分だけじゃなかったんだって思えるし、解決策を見つけることもできますよね。お店を訪れて話すことで自分の健康課題に気づいて、医療にアクセスするきっかけにもなるかもしれない。ここ1~2年、fermataさんがひとつのエコシステムのようになっていると感じています。 中村:それは嬉しい。私たちだけではないですが、フェムテックへの注目が高まって、偶発的に性やカラダのことについて語りたい人が語り合える場が増えましたよね。

  

性の話=“エロ”じゃない。消費や誰かを揶揄する文脈から離れて

小林: fermata さんもシオリーヌさんも、これまでタブー視されてきた性やカラダに光を当てて、気づきを与えていく点が共通していますよね。
 
 
シオリーヌ:私自身は、性の話をあんまりタブー視してこなかったんですよ。この社会に育ちながら。子どもの頃から、赤ちゃんってどうやってできるんだろう? っていう好奇心に始まり、人智が及ばない生命の話としてすごく興味があって。性の話がおもしろくてしょうがない。そのまま助産師学校で学び、人の人生に大きく関わる大切な知識だと思い続けていて。なので、世の中で性の話はこんなにもタブーで“エロ”だと認識されていることに気づいたのはYouTubeで発信を始めてからで。びっっくりしました。 小林:具体的にびっくりしたエピソードって……? シオリーヌ:私がYouTubeで発信を始めたのって、26歳の頃で。20代の女性が顔出しで性の話をすることに驚かれて、めちゃくちゃセクハラされたんですよ。コメント欄に「セックスの実技指導しろ」とか「マスターベーション見せろ」とか。オリジナルのコンドームをデザインして販売したら「買ったらやらせてくれるの?」とか。ああ、性の話ってこんなにも“エロ”と認識されているんだなって。思えば私も家庭ではオープンだったけど、学校で周りの子たちと話したことはなかった。自分の生活に関わる大事な知識としてではなく、AVや漫画、つくられた世界で、あるいは下ネタやエロ、誰かが誰かを揶揄する文脈でしか性の話に触れる機会がない。そこに大きな課題を感じました。だからこそ私は、淡々と当たり前のように性の話をし続けていかなきゃいけないと思っているんですね。 小林:発信を続けてきて、変化を感じることはありますか? シオリーヌ:若い視聴者の子から、性の話に嫌悪感を持っていたけど、私のYouTubeを観ていたら、フツーに大事な話だなって思うようになったって感想をもらうこともあって。そういう一人ひとりの意識の変化は嬉しいですね。
  
 

「自分らしさ」を大事にしてくれる人が周りにいれば大丈夫

 
小林:でもその一方、心ない言葉をかけられることでめげちゃうことはないですか?
シオリーヌ:心が折れそうになったこともあるし、ちゃんと傷ついています。ただ私のことを大事にしてくれるパートナーや友だちは、私が大事にしていることをちゃんと理解してくれる。夫と付き合い始める前、私のYouTubeを観ていた彼は、直接何も言ってないのに自主的に性感染症の検査を受けてきてくれたんです。すっごく嬉しかった。私もすぐに検査を受けて、オールマイナスの結果を見せ合ってからお付き合いしました(笑)。
友だちも応援してくれていますし。私が性の話は大事だって意思表明をすることで、私にとって心理的安全性の高い人たちがまわりに集まってきて、居心地のいいコミュニティができていると感じています。めんどくさいと煙たがれることがあっても、傷つけられることがあっても、自分にとってほんとうに大事な人がわかってくれていれば大丈夫。今はそう思えています。


   text by 徳 瑠里香 photo by 川島 彩水 (後編につづく

   【プロフィール】 シオリーヌ(大貫 詩織) 助産師/性教育YouTuber 総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。オンラインサロン「Yottoko Lab.」運営。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)。 中村寛子 fermata株式会社 Co-founder / CCO Edinburgh Napier University (英)卒。専攻は、Business Studies with Marketing。グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad;tech/iMedia Summit を主催している。dmg::events Japan 株式会社に入社し、6年間主にコンテンツプログラムの責任者として 従事。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にダイバーシティを推進するビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュースし、2018年からカンファレンスを展開している。fermataでは、企業向けコンサルティング事業を統括。 小林味愛  株式会社陽と人(ひとびと)代表 東京都立川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、衆議院調査局入局、経済産業省出向、株式会社日本総合研究所を経て、福島県国見町に株式会社陽と人設立。福島の地域資源を活かして地域と都市を繋ぐ様々な事業を展開。直近では、あんぽ柿の製造工程で廃棄される柿の皮を活用したコスメブランド『明日 わたしは柿の木にのぼる』を立ち上げ。第5回ジャパンメイドビューティアワード優秀賞受賞。子育てをしながら福島と立川の2拠点居住。サスティナブルコスメアワード2020シルバー賞及び審査員賞ダブル受賞。ソーシャルプロダクツアワード2021にて「ソーシャルプロダクツ賞」受賞。