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柿の木便り

月経、妊娠出産、更年期。個別のライフステージの悩みを医師・助産師に相談できる「産婦人科オンライン」とは?

病院に行くほどではないけれど、不調や悩みをもっと気軽に相談できたら。
情報は溢れているけれど、エビデンスに基づいたたしかなことを知りたい。
月経、性行為、妊娠、出産、子育て、更年期。自分のライフステージや子どもの成長過程で抱く、そんな想いに寄り添ってくれるサービスがあります。
株式会社KidsPublicが運営する小児科オンラインと産婦人科オンラインでは、総勢170名を超える医師・助産師に、オンラインで直接、悩みを相談することができるのです。
どんなサービスなのか。立ち上げの背景にある想いや課題感も合わせて、産婦人科オンラインの代表で医師の重見大介先生に話を聞きました。
 
 
       
      
 

個別で話を聞いたうえで、エビデンスに基づく客観的な情報を届ける

ー小児科オンラインと産婦人科オンラインはどのようなサービスなのか改めて教えていただけますか。
 
はい。私たちは、提携している企業や自治体に属する方々に向けて、毎日24時間いつでも、スマホから気軽に小児科医や産婦人科医、助産師に相談ができるサービスを提供しています。①専用のメッセージ機能でご相談を送っていただき24時間以内に返信する、②事前にご予約をいただいてお電話やLINE通話、メッセージチャットでリアルタイムにお話を聞く。主な相談方法はこの二つです。 扱っているのは「医療相談」の範疇なので、具体的な病名をお伝えして薬を処方するような「診察・診療」は行っていません。病院に行く手前の段階で、不安に思うことや気になることなど、お話を聞いた上で、できる限りエビデンスに基づいた客観的な視点から質問にお答えするようにしています。 たとえば、直近で多かった質問が、妊産婦さんのコロナワクチンの接種について。かかりつけ医の定期健診までには時間があるし、わざわざ受診をしてまで聞くほどではないけど、不安も大きく、判断材料になるできる限り正確な情報を知りたい。そういった状況の中でご活用いただくケースが多くありました。
  ーコロナ禍での妊産婦さんは不安も大きいですよね。ほかには具体的にどんな相談が多いですか?  
利用者さんのライフスタイルや状況によっても異なりまして。女性全般の健康で言えば、デリケートゾーンのかゆみや匂いが気になる、月経不順や不正出血がある、ピルを飲みたいが効果やリスクはどうなのか、といったこと。妊活中で、不妊症ではないけれど妊娠するためにはどうすればいいかといった相談もありますね。妊娠初期の方は、つわりへの対処法、食事に関する疑問、お腹が張るけど働き続けていいか、職場へ報告する際にアドバイスがほしい、など。ほかにも骨盤のゆがみや、二人目の場合は育児と妊娠の両立についても。産後は、授乳に関することと、メンタルヘルスについて。産後1年くらいはホルモンの揺れや赤ちゃんの育児で精神的な不調をきたす方が非常に多いんですよね。  
(産婦人科オンラインHPより)
 
  ーどんな悩みも他人事ではないし、私もそうでしたが、産後に孤独感を抱いてつらくなった経験のある方は多いんじゃないでしょうか。  
どんな人にもリスクがありますから。産後のお母さんが孤立して、産後うつになってしまうことは日本も抱える大きな課題ですよね。だから私たちの役割は、情報提供をすることと、話を聞くことだと思っているんです。産後1〜2ヶ月のお母さんから授乳の相談があった際に、私たちのチームの助産師が「ここまでよくがんばってきましたね」と声をかけるだけで泣いてしまうことがあります。それくらい張り詰めている。第三者として、自分のことを後回しにして育児をがんばっているお母さんの話を聞いて存在を認めるだけでも価値があるんじゃないかなと。実際に「話を聞いてもらえて安心しました」という声も多いんです。
 
 

女性たちのライフスタイルに沿った切れ目のない健康サポートをしたい

ーそもそもどうして、KidsPublicで産婦人科オンラインを立ち上げたのでしょう?

会社自体は2015年に創業し、2016年に小児科オンラインを、2018年に産婦人科オンラインをスタートしました。僕自身は大学病院で産婦人科医として診療や出産の立ち会いを行っていたんですが、4年前に地域社会全体で健康を促進する公衆衛生を学びに大学院へ進学したんですね。研究等の学びを深めて科学的なエビデンスに基づく適切なアドバイスをできるスキルを磨きたい、と。 それから、大きな病院に来られる人は限られているので、より広く社会課題を解決するために産婦人科医として何ができるのかを考えたいという思いもありました。というのも、笑顔で退院したお母さんが1ヶ月後に産後うつに悩まされていたり、若い女性が性暴力を受けて妊娠してしまったり。臨床現場でそうした現実に直面する度に、歯痒さを感じながらも、男女ともにもっと性教育が広がれば、そうした課題を解決できるんじゃないかと思ったんですね。
 
  ー私自身も性教育の必要性を感じつつも、学んでこなかった自覚があるので、どうすればいいのかわからないという課題感があります。
 
性感染症を防ぐ避妊法など性行為にまつわることだけでなく、妊娠出産、更年期などライフステージに沿った包括的な意味での性教育が求められていると思います。欧米では家庭でも教育機関でも、5歳頃から包括的な性教育をすることがスタンダードとされつつありますから。現在の日本では、若い世代に性に関する知識を提供する場があまりに乏しい。個人のリテラシーが上がりにくい社会構造になっていますよね。だから私たちは、病院にアクセスする一歩手前の段階で、疑問や悩みに答える場を提供したいと思っているんです。     病気にならなくても、特に女性は、月経に妊娠出産、子育て、更年期……人生のあらゆるタイミングでカラダの揺らぎがあって、それに伴う悩みも生じます。 それなのに、病気になって病院を受診する以外に、気軽に専門家に相談できる窓口がない。たとえば、デリケートゾーンも、炎症が起きたり感染症になったりしたら病院での治療対象になるけれど、そうなる前のケアや予防の観点は医療の枠組みには当てはまらない。でも、デリケートゾーンをケアすることで、感染症や皮膚トラブルを予防できる。おりものの変化は感染症に気づくサインにもなります。私たちはエビデンスに基づいて医師が情報提供する「産婦人科ジャーナル」も運営しているんですが、最近海外の文献をもとに、デリケートゾーンにまつわる記事も書きました。
  産婦人科オンラインジャーナルより)
  ーたしかに予防の観点で、病気になる前に知識を得たり専門家に相談できたりしたら、とても心強いです。  
そうですよね。今は多くの人がスマホを持っていますから、テクノロジーを活用して、女性たちの人生に沿ったかたちで切れ目のない健康をサポートしていきたい。若いうちから適切な性の知識を得て、自分自身を大切にする習慣が身につく社会であってほしい。それが産婦人科オンラインを始めた背景にある想いです。
 
 

小児科医・産婦人科医が町にいなくても、健康を保ち安心して子育てができるように

ー現在、産婦人科オンラインはどういった方が利用できるのでしょう?
 
現在は基本的に法人向けにサービスを提供していまして、仕組みは主に3種類。一つは、企業さんの福利厚生として社員の方々やそのご家族にご利用いただく。もう一つが、企業さんが提供しているサービスやプロダクトの会員になることで、付帯サービスとしてご利用いただけるパターン。たとえば全国に店舗があるイオングループさんともアプリで連携しています。 3つ目が自治体に導入いただくケース。たとえば、導入いただいている埼玉県の横瀬町や鹿児島県の錦江町では、地域に産婦人科医や小児科医が一人もいないんですね。例えば1時間以上かけて隣町まで行かないといけないけれど行く必要があるのか、受診までにセルフケアでできることはあるのか、そういった相談を受けることもあります。地域に1人しか産婦人科医がいない場合も、ピルの処方に否定的だったりほかの医師の意見を聞きたいというケースもあります。
 
  ー物理的にも気軽に医療にアクセスできない地方では特に、オンラインでの遠隔相談に可能性がありそうです。導入する上でのハードルはありますか?  
地方の場合、オンラインというツールのハードルよりは、狭い地域コミュニティの中で相談内容が伝わってしまうのではないかという心理的なハードルを持たれている方が多いように感じます。ただ、自治体のサービスとして提供はしますが、私たちが第三者に同意なく相談内容を漏らすようなことはありません。なのでご自宅でオンラインで相談を受けるほうが、そうした心理的ハードルは下げることができると思っています。 ちなみに鹿児島県の錦江町ではふるさと納税の寄附金の使い道として、子育て世代から「安心して子育てができる町に」という提案を受けて、導入いただきました。女性が健やかに働けるように、安心して子育てができるように、という観点で小児科・産婦人科オンラインをご活用いただいています。
 
  ーすばらしいですね。
  あと、珍しいケースですが、学校法人の新渡戸文化学園では、生徒さん自身、親御さん、教職員の方も相談できるような仕組みで導入いただいているんですよ。
 
  ー思春期の学生さんが医師や助産師に直接アクセスできるのは画期的ですね。  
そうなんです。親御さんや先生にはなかなか相談できないこともありますから。2020年に4ヶ月間だけ経産省の委託を受けて、全国でサービスを展開したんですが、10代の方からすごくたくさん相談が来たんですね。妊娠してしまったとか、彼氏と初めてセックスをしたがどうなんだろうとか。性教育がきちんとなされていない中で、若い世代がこんなにも悩んでいるんだという現実を目の当たりにしました。
 
 

オンラインで医療相談をすることが当たり前の選択肢になるように

住んでいる場所や勤めている企業、年齢に関係なく、小児科・産婦人科オンラインが広く利用できたらいいのになと思います。
私たちも学生さんから妊産婦さん、子育て世代、更年期世代まで、すべての女性に使ってほしいと思っています。だから私たちはあえて公衆衛生の観点からも、個人の有料会員でのサービス提供には注力していないんですね。経済格差がそのまま健康格差になる構造をつくってはいけないと。なので自治体や企業などに広くアプローチして、より多くの人が経済状況に関係なくサービスを利用できる仕組みを整えていきます。
今は提供できる方々が限られていますが、いつかはオンラインで医療相談をすることが、Amazonで買い物をするのと同じくらい当たり前の選択になったらいいな、と。病院を受診することに心理的あるいは物理的にハードルがある人たちが、オンラインでより正確な情報や相談にアクセスできるように、がんばります。
 
 
  text by 徳 瑠里香

重見大介先生
産婦人科医、株式会社KidsPublic産婦人科オンライン代表

2010年に日本医科大学を卒業。その後、日本赤十字社医療センターで初期臨床研修を修了し、大学病院や市中病院で産婦人科医として臨床に従事する。公衆衛生学を学ぶため、2018年に東京大学大学院公共健康医学専攻を卒業。同年4月より大学院博士課程に在籍中。 また、2018年より株式会社Kids Publicに参画し、産婦人科領域のオンライン相談サービスを提供する「産婦人科オンライン」の代表を務めている。