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柿の木便り
自分を大事にするってどうやるの?わたし自身との“セルフパートナーシップ”の育み方
「ご自愛ください」と言葉を交わすこともあるし、「自分を大事にしたい」と頭で考えることもあるけれど、実際に「ご自愛」や「自分を大事にする」ってどうやってやればいいの? はやい速度で進む社会の中で、仕事でもプライベートでも、自分を蔑ろにせず労る時間を持ってケアをすることは、難しいようにも感じてしまいます。 連載「わたしのバランス」に今回登場するのは、ダイエット美容家として、心とからだを切り離さないセルフケアを発信する本島彩帆里さん。
ポルトガル語で「自分自身(を大切にする)」という意味を込めたセルフケアブランド「eume(イウミー)」を展開しています。 自分を取り残さず、わたしとの関わりを大切にする“セルフパートナーシップ”を育むこととは-。 明日 わたしは柿の木にのぼる代表の小林味愛が聞き手となって、紐解いていきます。 *TOKYO創業ステーション TAMA STARTUP HUB TOKYOで開催されたイベント「新しい私の見つけ方」の内容をお届けします。
「わたし自身」を取り残さないことから始めて、「自己効力感」を育む
−まず、彩帆里さんご自身と、立ち上げたブランド「eume」についてご紹介いただけますか。
はい。私自身は、ダイエット美容家という肩書きで活動していて、2015年からInstagramを始め、YouTubeやメディア、書籍でも、ダイエットや美容に関する発信をしています。2016年に夫と一緒にエベリストという会社を立ち上げて、その一事業として2020年から「eume」をスタートしました。
eumeは私のメンタルケアやボディケアの経験そのものがかたちになったブランドです。eumeの理念は、そのまま私が大事にしていることでもあるんですね。私は、SDGsが掲げる「No one will be leaf behind(誰も取り残さない)」という哲学をベースに、もっと手前にある「わたし自身」を取り残さないことから始めたい、と思っているんです。たとえば不安を感じたときに、そう感じた自分を抑え込まず、小さな心の動きを受け入れて確認していくことが「自分自身を取り残さない自分との関わり」につながっていくと思っています。
あと、私もそうだったんですが、ダイエットをしていると、たくさんのタスクをこなそうとして、「できなかったこと」に目を向けてしまいがちです。ああ今日もがんばれなかった、と自己嫌悪に陥ってしまうことも。でも、がんばれたかがんばれなかったか、ではなくて、自分ができたことを認知していくことを大切にしています。朝起きて1杯の水が飲めたとか、お風呂にゆっくり浸かれたとか。eumeでは、日々「できたこと」の確認を積み重ねて「自己効力感(自分はできると認知する力)」を育む体験を提供したいと思っているんです。だから、毎日使いたくなるような、できたことを実感できるようなプロダクトを開発していて。具体的には、身体をあたためる光電子繊維のインナーや美味しさにこだわったプロテイン、宝石みたいなミネラルのバスソルトを展開しています。
−すばらしいです! そもそもどうして起業しようと思われたんですか?
産後、ずっとリバウンドを繰り返していたダイエットに成功して、20キロ痩せたんですよ。1年3ヶ月で。ちゃんと結果が出たので、コンテンツとしてお届けできるなあと思って、まずInstagramを始めたんですね。2015年当時はまだ、ダイエットのHOW TOをInstagramで発信している人があんまりいなくて、「私だったらこうしたいな」っていう気持ちが膨れていったんです。それこそ「自分にできること」だと思ったので、やってみようと。 始めてみたら1年くらいで多くの人に見ていただけるようになって。そのタイミングで夫が起業することになったので、私も参画することにしました(笑)。メンバー5人くらいの小さな会社なんですが、その中で私は、個人の発信とeumeの開発から販売、ブランディング、何から何までやっている感じです。
「できなかったこと」ではなく「できたこと」にベクトルを向ける
−自分を大事にすることから始める、自己効力感を育む、といったeumeのコンセプトに至った背景には、彩帆里さん自身のどんな経験があったんでしょうか? 私自身、思春期から体型にコンプレックスがあってダイエットを繰り返してきたんですが、なかなかうまくいかなくて。何者かにならなきゃいけない、痩せなきゃ人に認めてもらえない、と外側にずっと意識を向けていたんです。自分を置き去りにして。 ダイエットや美容に関する情報ってたくさんあるじゃないですか。私もたくさん知識はあったけど実践ができなかった。それができたら困ってない!っていうね(笑)。がんばることや、正解だと思うことを自分に押し付けてばかりでいつの間にか、しんどいとかお腹が減ったとか、そういう自分の感覚を取り残していました。我慢ばかりのダイエットだから続かなかったのだなぁと思います。 私はもともと、仕事でもプライベートでも自分の言いたいことを我慢して、限界が来たときに爆発しちゃうタイプ。人と関わるときも、自分の感情を押し込めて、自分で自分を大事にしていないことにも、誰かに自分が蔑ろにされていることにも気づけなかったんですよね。
−そこからいまの彩帆里さんになるまでに、何があったんですか?! 10年以上、カウンセリングに通い続けているのが大きいですね。そこではずっと自分を感じ、整理し、心地よく付き合っていくことに取り組んできました。身体が不調のときは心も前を向かないし、気持ちが落ち込んだときは身体もしんどくなる。教育の中で、身体のすり傷の治し方は学んでも、心の傷や不安との付き合い方は教わりませんでした。心と身体が密接に関わり合っているという前提や、不安を感じることは自分を守る上でとても大切な感覚だということも知りませんでした。その前提を大切に、ありのままの自分を受け入れられることが少しずつ増え、極端なやり方ではなく自分のペースでできることが、ダイエットやセルフケアでも増えていきました。
−カウンセリングでは具体的にどんなことをしてきたんですか? 最初は「今の自分を感じていくこと」からはじまりました。カウンセラーさんに身に起きた出来事を話しながら、そのとき自分が何を感じたか、その感覚にとどまってみたり、その都度フィードバックをもらったりしています。たとえば、今私の話を聞いていて、胸が熱くなるのか、ムカムカしてくるのか、焦っているのか、自分の感情をたしかめてみてください。そうやって、頭だけではなく身体で感じていく練習をずっとしています。 私は「できていない」と自分を責めるのも得意だったんですが、カウンセラーが安心安全な環境をつくってくれました。できていることを客観的に確認してもらったことが極端にできないと思ってしまう自分に戻らないサポートになりました。その過程で自分の自己効力感が育まれていったんです。 「できなかったこと」ではなく「できたこと」に目を向けて、社会的な基準や自分の中の“普通”ではなく、事実に基づく自分のペースや基準に向ける時間をつくっていく。これからも自分との関わり方を育んでいきたいと思っています。
−自分との関わり方を見つけて育んでいくことは、大事だけれど難しくもありますよね。 今日やって明日効果が出るわけじゃないですからね。だからこそ、がんばっているかがんばっていないか自分をジャッジすることは一度横に置いて、小さくてもできていることを確認して、自分が感じていることをじわじわ感じていく。その積み重ねでグラデーションのようにできることや感じられることが増えていくと思います。
ネガティブに感じる感覚も、じわじわ受け入れていく
−ここからはみなさんからの質問をベースにお聞きしていきます。今の自分を感じていくときに、不安や妬みといったネガティブな感情とはどのように向き合っていますか?
ネガティブな感情ってすごく大事だと思っていて。たとえば不安があるから、この先に進んだら危険だって止まることもできる。生命維持をするために不安は必要な感覚です。自分の大切にしていること、されたら嫌なことに気づくこともある。嫉妬だって自分に無意識に禁止していることを教えてくれることだってあります。私は不安を抑え込もうとする方がより意識が向いて不安が大きくなっていくように思います。不安をじわじわ感じて受け入れていくことで落ち着いたりできることを探すステップに移っていけるようになったと感じています。
−やりたいことがわかっていても、なかなか腰が上がらないという方から、彩帆里さんの原動力を知りたい、という質問がきています。
原動力、私もそんなにないですよ。休日とか、何もしないで溶けるようにダラダラしていることもよくありますし。やりたいと思っていても手がつけられていない仕事もたくさんある (笑)。重い腰を上げて無理矢理動いてもあんまり進まないんです。やる気が湧いてこないときは無理やり動かず、しっかり休息を取ったり、何が心身をすり減らす要因なのかを整理したりする。そうすることで原動力が自然と湧き起こってくる。自分の心と身体のペースを大切にしながら物事に取り組んでいく方が、結果的に自分と仲良く、遠くまでいけると思っています。
−わかります! やりたいことがあるのにできないとき、時間を言い訳にしてしまうという方も多いようなんですが、仕事や子育てをしている中で、どうやって自分を大事にする時間を確保していますか?
難しいですよね。私は家のことを外注するなど、何もしないぼーっとする時間をつくることにお金をかけてもいいと思っています。そのうえで、優先順位を決めて、がんばらないことはがんばらない。部屋は散らかっている日があってもOK!って感じで。あと、我が家は仕事も家事育児も夫婦でしているので、自分ひとりで解決しようとしないで、協力してタスクを分担するようにしています。頼れることは頼れる人に頼む。自分で抱え込んでいっぱいいっぱいになると、うまく回らなくなってしまうので、新しいことを始めるよりも前に、日々の中に時間的な「余白」をつくるようにしています。
−頼れることは頼って、余白をつくること、大事ですよね!とはいえ私は人に頼ることが苦手だったんですが、彩帆里さんは頼る場面でどのようにされていますか?
頼るのってスキルがいりますよね。私も苦手です。たとえば夫に頼むときは、いきなり言葉をぶつけるんじゃなくて、「ちょっと家事の分担について相談する時間とろうよ」と相手にも話し合う準備をしてもらう。そのうえで、なんのために分担するのか、どんなことをやってほしいのかを順序立てて話すようにしています。 私はそもそも、誰かに頼る前提にある、弱音を吐くことも苦手。私にとって夫やカウンセラーがそうなんですが、自分にとっての安心安全な人、弱音を吐ける人から伝えていって、頼ってみる。安心できる人との会話や弱音を受け止めてくれる人の存在は、ほかの人とのコミュニケーションも支えてくれるはずです。
(本島さんのInstagramより)
−まさに、Instagramでの彩帆里さんの発信もすごく心理的安全性が担保されていますよね。
そこはすごく意識しています。言い切らない、押し付けない、否定しない。この3つに気をつけて、「あくまで私の意見です」という前提を共有したうえで伝えるようにしているんです。カウンセラーにそういうコミュニケーションをずっとしてもらっているので。
やりたくないことをやらない。その先に「やりたいこと」が残っていく
−起業や独立をされたばかりで、仕事を引き受けすぎて睡眠時間やプライベートな時間を犠牲にしがちという方も多いです。自分の事業を推進しながら、自分を大事にするために、意識していることはありますか?
実は私も、NOと言うのが苦手で。起業したての頃、来た依頼を全部引き受けて、誘われた会食にもすべて行っていたら、倒れました。そこから、できないことは断って、間引いていったんです。やっぱり、本心で気が向かないものはいい仕事や人を引き寄せない。本当に行きたい場所、会いたい人、やりたい仕事だけを選んでいくようにしています。
数をこなすよりも、やりたい仕事に時間も気持ちも込めて、単価を上げていく。健全に働き続けるために、場合によっては仕事のパートナーにこれくらいの時間とコストがかかるので、単価を上げてくださいと伝えてもいいと思います。それでも無理をさせようとする人は危険なので、それこそ離れていいと思いますし。
自分のキャリアを築いていくうえで、「やりたいこと」って意外にパッと答えられないこともあると思うんですけど、「やりたいくないこと」はわかるじゃないですか。嫌なこと、やりたくないことはやらない。断ることで、自分にとっていい選択肢が残っていく。そしてそこに自分の時間とエネルギーを注ぐことで、結果的にやりたいことができるようになっている。仕事においても、人付き合いにおいても、気が向かないことは断ってやらない。不安が教えてくれる大事なことをキャッチして、自分のやりたくないことを知って、距離を調整したりやめていく。今日お話したことは、自分を大事にしていくファーストステップになると思います。小さなできることからやってみてください。
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ほんのささいなことでも「できたこと」を認知していくこと。
「今の自分」を感じて受け止めていくこと。
ネガティブな感情も否定しないこと。
「やりたくないこと」を手放すこと。
10年間かけてじわじわと育んできた自己効力感がベースにある彩帆里さんの「わたしのバランス」。 自分と健やかな関係を育んで「ご自愛」していくためのヒントにあふれていました。 明日からできることを少しずつ取り入れながら、長い視点で、自分と付き合っていきたいと思います。
text by 徳 瑠里香 photo ご本人提供
本島 彩帆里さん
起業家、ダイエット美容家、一児の母
産後-20キロのダイエット経験や、自身のセラピストであった経験を活かし、インスタグラムを中心に発信。(フォロワー25万人)著者は累計40万部を超える。ダイエットで苦労した経験やエステサロンでのダイエット指導、施術者だった経験から美圧マッサージを提唱。ボディケアだけではなく自身がカウンセリングに通いメンタルケアを10年以上取り組んでいる経験もあり、ダイエットや美容を通して自分そのものとの関わり方やメンタルヘルス(心のセルフケア)の発信にも力を入れている。自分自身を大切にするという意味を込めたセルフケアブランド「 eume 」(イウミー)を自社で立ち上げ、販売から卸まで行っている。