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柿の木便り

無理をせず、流れるように「自分だからできること」を重ねる。 〜死ぬまでに行きたい!世界の絶景の物語〜

 

“絶景プロデューサー”の肩書きで、自分が好きな「旅」を仕事をする詩歩さん。

 

20124月にFacebookページを立ち上げたことからその旅路が始まった「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」は10周年を迎えました。そんな節目に、詩歩さんの独立の経緯から、自分の仕事のつくり方、今後の展望まで、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」を巡る物語を紐解いていきます。

 

聞き手は、「明日 わたしは柿の木にのぼる」代表の小林味愛です。

 

TOKYO創業ステーション TAMA STARTUP HUB TOKYOで開催されたイベント「『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』の物語~絶景プロデューサー詩歩さんの旅と仕事の考え方~」の内容をお届けします。

 

 

「もう1人の自分」に向けて、死ぬまでに行きたい!世界の絶景を届ける

 

──詩歩さんのInstagramを拝見して、素敵な絶景にいつも癒されています。さっそく「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」の誕生秘話から教えていただけますか?

 

“ひょんなきっかけ”だったんですけれど、それは、2012年に新卒で就職したインターネット広告代理店の新人研修でした。入社してすぐの新人研修で、当時上陸したばかりのFacebookページをつくって、いいね数を同期で競い合うという課題が出されたんです。

 

そこで私は、大学時代から旅が好きだったので、自分が楽しく更新できるものとして「旅」をテーマに、Facebookの特徴から文字ではなく画像を軸に、海外の人にも届けられるものとして「絶景」を発信することを決めました。

 

新人研修の課題として、2012416日にフェイスブックページ「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」を立ち上げて更新をしていたら、研修期間の2ヶ月でフォロワーが2万人に、そのまま続けていたら、年の瀬には45万人になっていました。当時、日本のFacebookページのフォロワー数ランキングで総合10位以内に入っていたんです。

 

 

 

──すごい!多くの方が共感してくれた理由はどうお考えですか?

 

一つは、時代に合っていたこと。Facebookが広がり始めた頃で、競合がいなかったので、注目されやすかったことが大きいと思います。今だったらTikTokなど比較的新しいプラットフォームで早くに始めるとそのメリットが享受できるかもしれません。

 

それから、Facebookページを立ち上げたときに決めたことがいくつかあって、その一つが「もう一人の自分」をターゲットにすること。通勤電車に乗って会社に通う日々、投稿する絶景を見て、いつか旅にいくためにがんばろうと前向きな気持ちになれるかどうかを突き詰めました。結果、その絶景に行ったことがある人も、いつか行きたい人も、それぞれが想いを乗せてシェアができるように、私の意見は載せずに百科事典のような投稿を心がけようと。写真はもちろん一字一句にこだわって、当時は一つの投稿に23時間くらいかけていましたね。

 

──そんなに!「死ぬまでに行きたい!」というフレーズもとても印象的ですが、降ってきた感じなんですか?

 

実際にその1ヶ月前に死にかけたんですよ。卒業旅行で行ったオーストラリアでキャンピングカーが2回転半してドクターヘリに運ばれて奇跡的に助かった。研修中も怪我が残っていたんですが、その体験から「死ぬまでに行きたい!」という言葉が湧いてきたんだと思います。

 

 

ソムリエのように、知識と経験をもとに、絶景を発掘し紹介する仕事

 

──独立の経緯もお伺いしたいんですが、社会人2年目で会社を辞めることに不安や迷いはなかったですか?

 

独立を考え始めたきっかけは、会社員として働いている最中に1冊目の本『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』を出版したんですが、副業が認められてなかったので、個人の活動をすることに制限があったんです。副業をしやすい会社に転職して、個人の「絶景」活動と二足の草鞋を履いてやっていこうと思っていたんですね。 

 

 

だけど転職に詳しい人に相談したときにもらった言葉が胸に刺さりまして。「新しい仕事と絶景の仕事、二足の草鞋で半分半分の力でやっていけるほど甘くないよ」、それに「絶景の仕事に本腰を入れる前から、食べていけないと決めつけなくてもいいんじゃない?」と。お金の不安はあったけど、今は挑戦してみてもいいかもしれない。数ヶ月やってみてダメだったらまた別の仕事を探せばいい!と独立してから8年が経ち、今に至ります。

 

──すばらしい!もともと旅がお好きだったとのことですが、旅行会社への就職・転職は考えてなかったですか?

 

まったく考えなかったです。というのも、私は学生時代、日本全国の古墳を巡る旅をしていたんですが、好きだったのは、2000年くらい前に人が住んでいた場所に今、私がいる!というロマンを感じながらぼーっと過ごす時間。同じ「旅」でも、旅行会社でやることは、私の好きとは相容れないと思っていました。

 

──「好き」の解像度を上げて「旅」を仕事にされたんですね。独立してから、絶景プロデューサーとして具体的にどんなお仕事をされているのでしょう?

 

絶景プロデューサーの仕事は、ワインソムリエの絶景版かなと思っています。数多くのワインを飲んできた知識と経験をもとにさまざまな提案をしていくように、国内外を旅して絶景を見てきた経験から、自治体や企業のご要望に沿って、絶景を見つけて提案する。ほかにも、絶景をテーマに本を出版したり、SNSをはじめメディアでの発信もしています。

 

──絶景ソムリエなんですね!詩歩さんだから見つけられた絶景、これぞ絶景プロデューサーの仕事!といった具体例を一つ教えていただけますか?

 

たとえば、愛媛県の絶景を発掘するプロジェクトで、「モンチッチ海岸」という鏡面世界の絶景を見つけました。ボリビアのウユニ塩湖のような景色というとイメージされやすいかもしれません。地形的な条件が合えば鏡面の世界が見られるはず!とGoogleマップで検討をつけて何度か訪問し、3度目に実際に撮影することができた。県庁の方も、何度も行ったことがあるけどこんな景色を見られるとは思わなかったと驚かれていて、愛媛の方々も喜んでくれて。絶景を見てきた経験があったからこそ発見できた景色だと思います。

 

 

 

絶景は下調べが9割。現地で見て、“本当にいいもの”だけを届ける

 

──詩歩さんが絶景を選ぶうえで、基準はあるのでしょうか?

 

基準はふたつあって、一つは絵として美しいこと。もう一つは、ストーリー性があること。わざわざ足を運びたくなる、誰かに語りたくなる理由があるかどうか。わざわざ足を運んでも見たいと思えることを基準にしています。

 

──それって結構限られると思うんですが、その絶景をどうやって見つけるんでしょう?現地に行く前に、参考にしているものなどもあるんでしょうか?

 

絶景は下調べが9割だと思っていて。雑誌もHPSNSもテレビも、すでに公開されているものは可能な限り全部見たい。インスタでその場所のハッシュタグが1万件出てきたら、1万件全部見ますね。1回の旅行で丸2日は下調べに費やします。そのうえで、まだ発掘されていない景色、見方、視点を見つけに行く。残り1割の現地での運が重なれば、まだ見たことのない絶景に出会える。というか出会えるまで粘ります。たとえば富士山と桜を撮りたいと思ったときに、雲がかかっていたら晴れるまで4時間でも5時間でも待ちますね。

 

 

──すごい!詩歩さんが仕事をするうえで、一番大事にしていることがあればお聞きしてみたいです。

 

一番大事にしているのは、自分が本当にいいと思った景色だけを紹介すること。Facebookページを立ち上げた頃から、画面越しにいるもう一人の自分がいいねを押すか、いいと思ってくれるかをずっとぶれずに意識しています。なので、決まった場所があって必ずここを紹介してほしいという依頼は受けていないんです。現地で自分の目で見て体験して、自信を持ってもう一人の自分に勧められる景色だけを紹介したいので。

 

──それは、自治体からの依頼などクライアントワークでもぶれないですか?

 

はい。なので依頼をいただいてお断りするケースも多いんです。お金をいただく以上、私の力が最大限発揮できるものじゃないと申し訳ないと思うので、方向性が違って私以外の方にご依頼いただいたほうがいいものは、正直にお伝えしています。受けた仕事は、いただいた依頼の期待を超える仕事をすることを心がけています。

 

──だからこそ満足度が高く、詩歩さんにお願いしたい!という仕事が集まり、途絶えないんですね。

 

 

無理をせず、時代やライフステージに合わせて、川のように流れていきたい

 

──お忙しくお仕事をされている中、詩歩さんが心とカラダのバランスを保つために意識していることやルーティーンはありますか?

 

2016年から2019年まで、私は毎月海外に行くことを自分に課してやっていたんですが、結果体を壊しました。以来、無理をしないようにしています。ルーティーンとしては、今は週に1回パーソナルジムに通って体を動かし、最低月に1回はスマホに触れない日を設けています。スーパー銭湯に行ってスマホをロッカーに入れて、ゆっくりお風呂に浸かったり漫画を読んだりして。お風呂は好きなので毎日1時間くらい入っていますね。

 

──いいですね。歳を重ねてライフステージが変わっていく中で、詩歩さんの今後の展望、新たにチャレンジしていることはありますか?

 

新たに始めたこととしては、2年前に世界遺産検定1級を取って以来、歴史を知って絶景を見に行くことをお勧めするYoutube企画「#絶景で学ぶ世界史」を立ち上げたり、最近は公共交通機関だけを使って絶景を見に行く「電車とバスでいく!日本の絶景ひとり旅」の自主連載をnoteで開始しました。

 

 

「死ぬまでに見たい!世界の絶景」もひょんなことから始まっているので、私自身、これを成し遂げたいという大きな目標は特にないんです。いただけるいろんなご要望に応えながら、川のように流れていきたい。2012年から時代も変わって、誰もがSNSで発信ができるようになったので、絶景を発信することに固執はしていなくて。その時代、ライフステージに沿って私自身の働き方も変えていきたいです。

 

──今日改めてお話を聞いて、詩歩さんは、柔軟でありながらもぶれない自分の軸があって、その姿勢が共感や信頼を生んでいるんだなあと感じました。楽しかったです。ありがとうございました!

 

text by 徳 瑠里香 photo by 詩歩さん

詩歩(Shiho)さん
「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」プロデューサー

静岡県出身。累計63万部を突破した書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」著者で、SNSのフォロワー数は100万人以上。昨今の”絶景”ブームを牽引し、流行語大賞にもノミネートされた。 現在はフリーランスで活動し、旅行商品のプロデュースや自治体等の地域振興のアドバイザーなどを行っている。静岡県・浜松市観光大使。

公式サイト https://shiho.me/
Instagramアカウント「@shiho_zekkei
Youtubeアカウント https://www.youtube.com/user/zekkeichannnel