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柿の木便り
正解じゃなくても、大丈夫。諦めた先で見つけた希望 〜明日柿ポエムができるまで〜

「明日 わたしは柿の木にのぼる」のサイトのトップには、
ひとつの大切なポエムがあります。
心も、カラダも、生き方も、
これまで歩んできた道のりが、
今のわたしを構成している。
わたしが選んだものすべてが、
未来のわたしをつくっていく。
人生は選択が続くけれど、
いつも「正解」なんて
だせるわけがない。
失敗だってご愛嬌。
つまずいたら、立ち上がればいい。
疲れてしまったら、休めばいい。
どんな時も、わたしらしく。
わたしはわたしを、
愛しつづけていたい。
自然体でいられれば、
毎日を笑顔で過ごせるから。
前を向いて、空を見上げて、
木にのぼる自由が、
わたしにはある。
この詩は、もともとは自分自身に向けたメッセージでもありました。
気づけは多くの方に読んでいただき、「気持ちが軽くなった」「泣きました」といった声をいただくようになりました。
思い返せば、詩の背景を誰かにしっかり語ったことはありませんでした。
今回は、この詩に込めた気持ちをもう少しだけ丁寧に、言葉にしてみたいと思います。
どこかで、読んでくださる方の心にもそっと届いたら、とても嬉しいです。
「空気を読む」ことに慣れすぎていた
社会のなかには、「女性はこうあるべき」という目に見えないプレッシャーが、静かに、でも確かに存在しているように感じてきました。
特に何かを言われなくても、まわりの空気をなんとなく察してしまう。
そして、傷ついても何も感じていないふりをして、その場を笑顔でやり過ごす。
気がつけば、それが当たり前になっていました。
家事も子育ても「やって当然」。
少しでも自分のことを優先しようとすると、「甘えかな?」なんて思われそうで言い出せない。
本当は、自分の心をちゃんと大切にするって、すごく勇気がいることだと思います。
心がぷつんと音を立てて切れるとき
わたしはもともと、人前に出るのが苦手な子どもでした。
授業中に当てられるだけでドキドキしていたし、声が小さいと言われるのがとても嫌でした。
それでも中学でバスケ部に入って少しずつ変わって、高校では部活も遊びも思いっきり楽しんで。
でも大学受験は全滅。浪人して、朝4時に起きてひたすら勉強する日々が始まりました。
なんとか大学に合格して、頑張れば報われることもあるのかもしれない、と少しだけ自分の未来に希望を抱けた気がします。
留学したり、学ぶ楽しさを知ったりして、将来は社会に役に立つことがしたいと国家公務員になりました。
当時はまだ「お茶くみをするのは女性」「お酌をするのは女性」なんて雰囲気も残っていて、これは職種に関係なく女性は率先して動いた方が良いのかもしれない、と職場でずっと気を遣っていた記憶があります。
でも、経済産業省に異動してからはそんなこともなくなって、とにかく忙しくて、寝る間もないくらい。
だけど、それがなんだか嬉しくて。
余計なことを考えずに、ただ仕事に集中できる日々は、わたしにとっては救いでもありました。
その後、「もっと現場に近いところで働きたい」と思い、コンサル会社に転職しました。
けれどそこで、価値観の違いや働き方への疑問が大きくなっていきました。
「子ども、まだ産まないですよね? すぐ抜けられると困るので」と人事に聞かれ、
何も感じていないように「はい、産みません」と答えてしまった自分の声が、今でも胸に残っています。
「わたし、何のために働いてるんだろう」
「誰の役に立ってるんだろう」
社会の中で、自分の価値も存在の意味もわからなくなっていきました。
気がつけば、円形脱毛症が3か所。
夜はお酒がないと眠れなくなり、一人で一升瓶を空けた夜もありました。
「なんでここまで無理してるんだろう」
そう思ったとき、心が“ぷつん”と音を立てて切れた気がしました。
諦めるって、逃げじゃない。ちゃんと「選ぶ」ことだった
正直に言えば、わたしの人生は「選びとってきた」というより、「もう無理だ」と感じて、少しずつ手放してきた道のりだったと思います。
でも、あらためて振り返ってみると、逃げたことも、やめたことも、すべてが「自分を守るための選択」だったと思えるようになりました。
それは、「大切な人たちを守るための選択」でもありました。
頑張らなきゃいけない。
負けちゃいけない。
そんなふうに自分を追い込んでいた過去のわたしに、今なら、こんなふうに言ってあげたいです。
「やめていいよ。逃げてもいい。それも、立派な選択だからね」って。
自然体で生きるって、簡単じゃないけど
その後、東日本大震災で大きな被害にあった福島県で今できることをやりたいという心からの気持ちがわきあがり、福島のたった1人でも「ありがとう」って心から言ってもらえるような仕事をしたいな、という純粋な気持ちで起業しました。
最初は1人で小さくはじめた会社でしたが、採用ページも出していないのに「働きたい」とたくさんの問い合わせをくれるようになって、気づいたら一緒に働く仲間が毎年増えていきました。
農業や女性の健康に関わる仕事をしながら、わたしは今も毎日たくさんの「選択」をし続けています。
お客様のこと、社員のこと、農家さんのこと、社会とのつながり、そして家族のこと。
すべてを「どうあるべきか」じゃなくて、「どうありたいか」という人間味のある心で選べたらいいなと思っています。
「これが心地いいな」と感じるほうへ、少しずつ進んでいけたら——
それだけで、わたしにとっては十分なんです。
自然体でいるって、思っているよりずっと勇気がいること。
でも、他人の評価ではなく、自分の素直な気持ちに耳を澄ませられるようになると、「ちゃんと休む」とか「無理をしない」とか、そういうことを自然に選べるようになる気がしています。
だから、わたしがブランドづくりで大切にしているのは、ちゃんと「等身大」であること。
誇張しないこと。
無理して着飾らないこと。
農家さんの想いも商品もわたしたちブランドに関わる皆のまなざしも——
ぜんぶ虚像ではなく実際に存在する「等身大」でありたいと思っています。
わたしは、わたしの味方でいたいから
わたしがこのポエムに込めた気持ちは、
「がんばるわたし」じゃなくて、「弱くても笑っていたいわたし」への、そっとしたエールです。
それが人の強さと優しさだとも思うから。
誰かと比べなくていい。
うまくやれなくてもいい。
自分のペースで、自分の心地よさで生きていけたら。
そんなふうに思えるようになってから、自然と笑顔が増えていきました。
そうしてはじめて、まわりの大切な人たちにも、ちゃんとやさしくなれた気がします。
木にのぼる自由を、自分にゆるす
人生には、正解なんてひとつもない。
ロールモデルをなぞっても、同じ景色が見えるとは限らない。
だから、つまずいたっていいし、遠回りしたっていい。
立ち止まった日も、何度だってあっていい。
大事なのは、そんな日々のなかで、
「それでも、自分を信じていたい」と思えること。
この詩は、そんな気持ちを込めたわたし自身へのメッセージであり、
今を生きる誰かへの、静かな応援の気持ちでもあります。
今日も、あなたが「自分の心の声」をちゃんと大切にできますように。
そして、少しでも笑顔になれる瞬間がありますように。
「木にのぼる自由が、わたしにはある」
この言葉を、そっと心のポケットに入れてもらえたらうれしいです。
text by 小林 味愛

小林味愛 (こばやし みあい)
株式会社陽と人 代表取締役
1987年東京都立川市生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、衆議院調査局入局、経済産業省出向。その後、株式会社日本総合研究所での勤務を経て、2017年に福島県国見町に「農産物の流通・6次化商品開発・ 地域づくり」を行う株式会社陽と人を設立。現在、東京都と福島県の2拠点で活動を行なっている。 https://hito-bito.jp/