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わたしらしく、あなたらしく。性やカラダのタブーをほぐしていくために(後編)

 

シオリーヌ×中村寛子×小林味愛

性教育、ジェンダー、生理、フェムテック。

これまで社会の中でタブー視されてきたことが少しずつ語られるようになってきました。とはいえ、まだまだ無知や偏見、抵抗感もあるはず。

わたし自身、パートナーや子ども、職場で一緒に働く人たちの「自分らしさ」をうばわないために、何ができるんだろう。

こどもジェンダー』(ワニブックス刊)を上梓した性教育YouTuberのシオリーヌさんと、fermata(フェルマータ) CCOの中村寛子さん、明日 わたしは柿の木にのぼる代表の小林味愛が語り合い、一緒に考えました。

※中目黒蔦屋書店で開催されたオンラインイベントの内容をお伝えします。

前編はこちら

「女子力」「モテ」に潜むジェンダーバイアス

小林味愛: ジャンダーに関するモヤモヤのひとつに、私、よく「女子力ないよね」って言われるんですよ。その度に女子力ってなんぞや? って。

シオリーヌ: 私は学生時代、自虐的に言ってました。愛らしいふんわりしたファッションよりより派手でギラギラしたものが好きだし、短髪だし、いわゆる「モテ」とはかけ離れた存在だったので。言われる前に自分で言ってやれと。「モテ」から外れた自分は別のところでアピールしないといけないというプレッシャーも感じていましたね。当時の私に「みんなにモテなくていいから、そのまま自分らしさを大事にして!」って言ってあげたい。

小林: うんうん。「味愛ちゃんみたいなタイプは無理〜」って言われても「私もあなたは無理だし、こちらにも選ぶ権利がございます」ってね(笑)。

シオリーヌ: そういうことを言う人は何を求めているんでしょうね。私のYouTubeのコメント欄でも、ほんとうに嫌なんですけど、シオリーヌ抱けるor抱けない論争が起きることがあって。この人たち、男性から求められることが女性にとって嬉しいことに違いないって価値観なのかなって、怖い……。

小林: 好きになる人なんてそれぞれ違うんだから、いわゆる「女子力」「モテ」といった言葉にはジェンダーバイアスが含まれていますよね。

 

多様な背景と選択肢を持つ人が働きやすいように

 

小林味愛: fermataさんが女性の健康課題に取り組む中でいま、違和感を抱いていることはありますか?

中村: 私たちは企業さんに向けたフェムテックのコンサルティング事業も行っているんですね。現場の方と一緒に上司の方へ提案に行くと、「もう弊社には女性活躍の制度はあるのに、どうして必要なんですか?」って言われちゃうことがあって。女性が会社の中で管理職として決定権を持てるような制度があっても、生理や更年期など、生物学的女性が直面する健康課題には目を背けがち。制度を定めることがゴールになっていて、その先に女性が長く活躍し続けることまで考えられていないように感じることが多いです。

小林: そう、そうなのよ〜! 私も10年近く大きな企業で会社員として働いていて、当時は女性役員の数をどう増やすかが様々な企業で議論されていました。あからさまに「数合わせだから」って言う人もいてすっごくモヤモヤしてました。女性の管理職の枠だけあっても、女性自身が、他の選択やカラダを犠牲にしてまで目指したいとは思えない、辿り着けないことがある。

シオリーヌ: いまだに体力もあって家庭のことは妻に任せておける男性が働く人の標準になっている組織も多いですよね。でも男性だって家事や育児をやりたい人もいて、多様ですから。いろんな背景や選択肢を持った一人ひとりが働きやすい環境をつくっていかないと。

中村: ほんとうに。10代、20代の若者たちはわりとあたり前にそう思っていて、多様な価値観が大前提にある。彼らがこれからの日本社会をつくっていくと思うと、上の世代も変わらざるを得ないし、日本の組織が変わっていくチャンスは、まさに「今」だと思います。

 

組織の中で、共通認識を持って、話ができる場をつくる

 

小林: 多様な個人が働く中で、企業が組織として変わっていくためには、どんなことをしていったらいいんでしょう?

中村: まずは、性や心身に関する正しい知識を得て、語り合える共通言語を持つことだと思います。「セックスという言葉に、性交渉 以外の意味があることを知らなかった」というお声もよく聞くので。セックス、ジェンダー、セクシュアリティの違いって、学校では習っていないという方も多い。 そういった基本的な知識を学び、社内での共通認識を持った上で、じゃあ組織としてどうしていけばよいかを考えていけると良いのかなと。

たとえば生理の話でも、軽い人もいれば私のようにとても重い人もいて、一概に困りごとがこれで、解決策はこれだとは言えないんですね。だからこそ、「その人」が働く上でどんな悩みや違和感を抱えているのか、小さなことでも話せる場があるとよいと思います。

小林: 学んだり話をする場をつくったりするのが自社で難しければ、fermataさんやシオリーヌさんのような第三者を招くのもいいですよね。

中村: はい。私たちも企業研修をやっているので、気軽にお声がけいただけましたら。

小林: 性やカラダのことは一人で悩んでいる女性が多いと思うので、組織の中で、専門家にアクセスできたらより働きやすくなりますね。そうなったらいいな。

 

自分にもジェンダーバイアスがあることを認識することが第一歩

 

小林: 視点を個人に戻して、家庭の中でジェンダーを考えていく上で、大事にしたいことはありますか?

シオリーヌ: 多かれ少なかれ、誰しもがジェンダーに関するバイアスを持って生きていると思います。たとえば『こどもジェンダー』を読んだときに、抵抗感が生まれることもあると思うんですよ。「男の子のスカートはちょっと……」とか「自分の子どもが同性パートナーを連れてきたらどうしよう」とか。でも、その気持ちは責めなくてもいいんです。この社会の中で育っていれば、悪意がなくても無意識のうちに刷り込まれてきたバイアスはあると思うので。

私にもある。私は家事をしないんですが、夫に「ほんとうに台所に立たなくていいんですか?」って何度も何度も確認しましたから。うしろめたさがあったのは、料理をするのは女性というバイアスがあったからで。ジェンダーについて発信している私でさえも。それくらい価値観を改めていくのは難しい。だからまずは自分にもジェンダーバイアスがあることを認識することが第一歩だと思います。

小林: 自分には偏見はないし、まわりにいないから大丈夫、と思っている人もきっといますもんね。

シオリーヌ: ただ公言していないだけで、きっとあなたのまわりにもジェンダーに悩んでいる人はいるはずで。自分が目に見えている世界がすべてじゃない。知らず知らずのうちに誰かの権利を侵害して傷つけないために、想像力を持ってほしいです。

小林: あとやっぱり、家事や子育てを担うのは女性というバイアスは、女性自身もまだまだ持っていますよね。それこそ性教育は母親がやるって思っている人も多いんじゃないかなあ。

シオリーヌ: そうですよね。お父さんが子育てや性教育に当事者意識を持ちにくいとしたら、課題はパートナーシップにあると思うんですね。以前、ある自治体で産前の「両親学級」を担当させてもらったんです。一般的には両親学級って、おむつの替え方や沐浴の仕方、赤ちゃんのお世話のし方を習うケースが多いんですが、その自治体のテーマは「産前産後のパートナーシップ」。産後の女性の心身にはこんな変化がありますよ〜って説明して、そのときにどうしてほしいかを事前に共有しておく。子育ても性教育も具体的なやり方を学ぶ以前に、不安や課題を共有できるパートナーシップの土台をつくることが大事だと思います。

 

あなたのカラダも人生もあなたのもの

 

シオリーヌ: 本を出版してすっごく嬉しいことがあって。親御さんが『こどもジェンダー』を買って小学生のお子さんに読ませたら「フツーのことしか書いてなかった」って言ったという感想をもらったんですよ。本来私は、この本が必要ない世の中になってほしい。10年後20年後、子どもたちが大人になる頃に、「お母さんだけがごはんをつくってた時代があったの?」「なんでこんなあたり前のことわざわざ言ってるの?」って、私が発信する必要がなくなってるといいなって。

中村: わかります!私たちも「フェムテック」という言葉がなくなり、そのようなプロダクトやサービスが当たり前の選択肢として浸透すればいいなと思っています。

小林: ほんとうにそうですね。まだまだ自分自身、周囲からのバイアスに苦しんでいる人もいるかと思います。最後に、メッセージをいただけますか?

中村: 私自身、フェムテック業界にいながら、無茶をしがちで、自分の心とカラダに耳を傾けていくのは難しいなと常々思っている人間でして。実証実験だと思って、いろんなプロダクトを試しながら、自分のカラダのオーナーシップを取り戻している最中です。だからみなさんも、できていない今の自分を責めずに、一緒に少しずつ、自分のカラダに対するタブーを解き放っていきましょう。

シオリーヌ: 私がいつも、みなさんに伝えたいことはただ一つ。あなたのカラダとあなたの人生はあなたのもの、ということです。自分がしたくないことを無理にしなくていいし、あなたが何をするかを決める権利があるのはあなただけ。主導権を持って、自分が納得する人生を選び取っていってください。私からは以上です。

小林: おふたりともたっぷりありがとうございました!

text by 徳 瑠里香 photo by 川島 彩水

(おわり)

 

【プロフィール】

シオリーヌ(大貫 詩織)

助産師/性教育YouTuber

総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。オンラインサロン「Yottoko Lab.」運営。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)。

 

中村寛子

fermata株式会社 Co-founder / CCO

Edinburgh Napier University (英)卒。専攻は、Business Studies with Marketing。グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad;tech/iMedia Summit を主催している。dmg::events Japan 株式会社に入社し、6年間主にコンテンツプログラムの責任者として 従事。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にダイバーシティを推進するビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュースし、2018年からカンファレンスを展開している。fermataでは、企業向けコンサルティング事業を統括。

 

小林味愛 

株式会社陽と人(ひとびと)代表

東京都立川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、衆議院調査局入局、経済産業省出向、株式会社日本総合研究所を経て、福島県国見町に株式会社陽と人設立。福島の地域資源を活かして地域と都市を繋ぐ様々な事業を展開。直近では、あんぽ柿の製造工程で廃棄される柿の皮を活用したコスメブランド『明日 わたしは柿の木にのぼる』を立ち上げ。第5回ジャパンメイドビューティアワード優秀賞受賞。子育てをしながら福島と立川の2拠点居住。サスティナブルコスメアワード2020シルバー賞及び審査員賞ダブル受賞。ソーシャルプロダクツアワード2021にて「ソーシャルプロダクツ賞」受賞。

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