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わたしのこころとからだを整える 眠りとセルフケア

2024年2月1日、「パラマウントベッド」と「明日 わたしは柿の木にのぼる」とは、小冊子『更年期Handbook〜わたしのこころとからだを整える  眠りとセルフケア〜』(以下『更年期Handbook』)を刊行しました。今回は、この冊子が生まれた背景や込めた想い、内容をお伝えします。

 

働く更年期の女性の不調改善をサポートしたい

 

小冊子『更年期Handbook』は、別の角度から健康課題の解決に取り組む2社の“ある想い”が重なったことから始まりました。睡眠に関するサービスを展開する「パラマウントベッド」の大槻朋子と、デリケートゾーンケアアイテムを届ける「明日 わたしは柿の木にのぼる」の小林味愛は、当時の想いをこう振り返ります。

 

 

「私たちパラマウントベッドは、さまざまな方々の睡眠の研究に取り組んでいます。その中で、教科書レベルで更年期障害のある女性の多くが睡眠の課題を抱えていると読むことがあっても、実感がつかめないまま、動き出せずにいました。小林さんたちと出会って、更年期の女性たちのリアルな声を知り、今を生きる更年期世代の女性たちの悩みを睡眠によって解決できないか、仮説を立てて実証調査をすることにしました」(パラマウントベッド・大槻)

 

 

「デリケートゾーンケアブランドとして4周年を迎える私たちのお客さまは、更年期世代の方も多いんです。更年期にあたる40〜50代の女性たちは、仕事に家事に育児に介護など、役割に追われてとにかく忙しい。その忙しさやストレスからよく眠れないというお話をたくさん伺ってきました。でも私たちは、お客さま個人の職場や家庭環境にも、睡眠にも、ダイレクトにお役に立てない。それでも身近にいるお客さまの不調を和らげるアプローチができないか、その方法を探っていました」(明日 わたしは柿の木にのぼる・小林)

 

働く更年期世代の女性たちの不調を和らげるサポートをしたい。そんな想いから、2社は経済産業省「フェムテックサポートサービス実証事業補助金」の採択事業として協業で、働く更年期の女性の不調改善とサポート体制を整える実証事業を始めました。

 

セルフマネジメント力の向上は、更年期や睡眠の不調改善につながる

実証調査として、働く40〜59歳の女性200名にアンケート調査を実施。その結果、働く更年期世代の約7割が不眠の悩みを抱えていること、更年期症状が重い人は不眠の症状も重いこと、セルフケアを取り入れている人とそうでない人の差は「症状」ではなく自分の体に対する「理解度」にあることがわかりました。

 

アンケート調査の結果を踏まえ、知識を身につけ、自分の状態を知り、適切なセルフケアに取り組む「セルフマネジメント力」の向上を目的に「更年期不調改善プログラム」を推進。睡眠と更年期に関する具体的な不調を抱える30名に約1ヶ月間参加してもらい、効果を検証しました。

 

 

参加者30名を約半数に分けて、A群は①動画視聴で基礎知識を学び、②睡眠計測センサーで自分の眠りを計測、B群は①、②に加えて③睡眠カウンセラーと更年期(メノポーズ)カウンセラーによるカウンセリングと、④日常で継続的に自分に合ったセルフケアを導入。プログラム実施前後にアンケート調査を行い、これらの取り組みが女性の心身にもたらす効果を測定しました。

 

調査の結果、B群にセルフマネジメント力の向上と、簡略更年期指数、アテネ不眠尺度の改善が見られました。更年期症状としては特に「イライラする」「頭痛・めまい・吐き気がある」「疲れやすい」といった項目に改善効果がありました。また、93%の人が不眠や更年期症状に対する改善効果を感じたと回答しました。

セルフマネジメント力:更年期に関する知識・状況に対する認知・それに対する行動(セルフケアの実施)を主観的評価で点数化(32点満点)。
簡略更年期指数:日本人の更年期女性特有の症状の有無や程度を把握する指標。25点事象は生活習慣の改善や治療が必要(100点満点)。
アテネ不眠尺度:世界保健機構(WHO)が2000年に作成した世界共通の睡眠評価法。6点以上は不眠の可能性が高い(24点満点)。

 

更年期を含む女性の心身にまつわる知識を身につけ、不調の原因を認知し、認知した原因に応じたセルフケアを日々の暮らしに取り入れる「セルフマネジメント力」の向上は、睡眠と更年期の不調の主観的な改善につながる可能性があることがわかったのです。また、カウンセリングという他者が介在したパーソナルなサポートと具体的なセルフケアの提案がセルフマネジメント力の向上に高い効果がある可能性が示されました。

 

 

「睡眠改善が更年期世代の不調改善に影響がある可能性が見えてきました。今回のプログラムに介入してもらった『NTT PARAVITA』のねむりのパーソナルトレーナーは普段、男性を対象にするケースが多いそうなのですが、役割が多くて忙しい女性が潜在的に睡眠の悩みを抱えていることも浮き彫りになりました。具体的な睡眠の悩みを持つ方だけでなく、更年期症状のある方に対しても、睡眠によって不調を和らげること、その具体的な方法を提案していけたらと考えています」(パラマウントベッド・大槻)

 

 

「自分の心身に関する正しい知識があれば、不調を自覚し、改善するためのセルフケアを選択できる。けれどまだまだ女性個人が知識を得る一歩目にも、自分に合ったセルフケアを導入し継続していくことにもハードルがあることを実感しました。なかなか自分を大事にする時間やゆとりがないのが現状に感じます。今回の結果を踏まえて、更年期世代の女性個人、そして女性たちを取り巻く社会にも働きかけていきたいと強く思いました」(明日 わたしは柿の木にのぼる・小林)

 

正しい知識を得て、自分に合ったセルフケアを取り入れる

 

自分の心身にまつわる正しい知識を得る。そのきっかけづくりとして制作したのが『更年期Handbook』です。更年期に不調が生じるメカニズムを紐解きながら、不調を和らげる選択として、眠りを改善する日々の習慣やデリケートゾーンケアをはじめとするセルフケアを紹介しています。

 

 

「昔から女性のからだの仕組みは変わらないのに、仕事、結婚、出産といった選択肢が増え、それに伴う役割も増え、私たちの日々は慌ただしい。けれど、だからといって、“更年期だから仕方ない”と不調を放置せず、ご自身を大事にしてほしい。揺らぐことがあっても、睡眠やセルフケアでベースを整えておけば、自分を取り戻せるはずだから。この冊子がその一助になればうれしいです」(パラマウントベット・大槻)

 

 

心身に不調が生じる「更年期」を健やかに過ごしていくために

 

今回のプログラムと冊子は、広尾レディース院長・医学博士の宗田聡先生と、メノポーズカウンセラー(更年期と加齢のヘルスケア認定)の吉川千明さんに監修いただきました。

 

 

「更年期とは、女性の閉経を挟んで前後5年ずつの合計10年の間を指します。つまり更年期は誰しもに訪れるものなんですね。更年期は卵巣の機能が低下し、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が急激に減少することで、自律神経が乱れ、心身にさまざまな不調が生じていきます」(医学博士・宗田聡先生)

 

 

「更年期症状は人によってさまざまで200種類以上のバリエーションがあると言われています。私自身も22種類の不調に悩まされました。私は更年期に仕事でも家でも大きなストレスを抱えていて、このままでは心身がもたないと危険を感じていました。たまたま産婦人科医の先生と出会ったことで、更年期に関する知識を得て、セルフケアを日常に取り入れ、症状が改善していったんです。この経験を伝えなきゃ!とメノポーズカウンセラーとして活動しています」(メノポーズカウンセラー・吉川千明さん)

 

医学的な知見やご自身の経験から、おふたりは「セルフマネジメント力」の重要性を説きます。

 

 

「30年ほど臨床の現場にいますが、更年期世代も専業主婦から現役で働く女性が増え、不調を訴える方々の悩みも変化しています。みなさんとにかく忙しく、ゆっくり休んで自分を労わる時間がないとおっしゃる。でも時間がないのは主観的なもので、睡眠を含めしっかり休んで体調を整えたほうが、家事も仕事もパフォーマンスは上がるはずなんです。忙しいからと日々の食事や睡眠を削って自己管理を怠っていては、悪循環が生まれてしまう。更年期の不調を緩和するためにも、正しい知識を得て、ぜひとも良質な睡眠を確保していただきたいです。症状が改善せずつらいときは、産婦人科を受診して、適切な治療を受けることをおすすめします」(医学博士・宗田先生)

 

 

「今回のプログラムでのカウンセリングを通して、働く更年期世代の女性たちのリアルな声を聞きました。フルタイムで残業もして子育てをして1日4時間睡眠で生活をしている、会社で大抜擢を受けたけれど上司の言葉にプレッシャーを感じて眠れないなど、みなさん非常に危険な状況に置かれている。更年期は免疫力が落ちるので病気にもかかりやすい時期です。睡眠をしっかりとってぜひ免疫力を上げていただきたい。本プログラムで、話を聞いて共感して、適切なアドバイスをして“あなたのためにできること”を最大限やっていくことの価値を痛感しました。今回に限らずプログラムを広げていきたいし、危機感を感じている人は、産婦人科医やメノポーズカウンセラーなど専門家を頼ってほしいです」(メノポーズカウンセラー・吉川さん)

 

働く更年期の女性を取り巻く企業や社会の仕組みを変えていく

 

とはいえ、個人の意識だけでなく、企業や社会の風土を変えていくことも重要だと、宗田先生と吉川さんは言葉を続けます。

 

「働く女性は増えて、妊娠出産で離職するM字カーブはなくなってきていますが、非正規などに雇用形態を変えるL字カーブが生まれてきているし、まだまだ海外と比べても日本は圧倒的に女性の管理職が少ない。その背景には更年期の健康不安もあるでしょう。要因は複雑に絡み合っているものの、更年期の不調が緩和して個人のパフォーマンスが上がれば、女性も管理職に挑戦しやすく、結果的に会社の利益につながる。そうした健康経営の観点からも、人事・経営層の方にはこの冊子を読んでいただきたいですね」(医学博士・宗田先生)

 

「人口も働き手も減少する中、更年期世代の女性が健やかに働き続けることは企業や社会の発展には欠かせません。女性が活躍していくためには、女性個人だけでなく、会社の上司や家庭のパートナーも更年期の知識を深く理解していく必要があると思います。各企業に知識を学ぶ機会を設けるなど、仕組みとして組み込んでいく。決め事として、会社と社会が変わっていけば、おのずと個人も変わっていけるはずだから」(メノポーズカウンセラー・吉川さん)

 

 

今後『更年期Handbook』は、更年期の女性だけでなく、女性たちを取り巻く家庭のパートナーや職場の同僚を対象にした啓発イベントを実施しながら、届けていきます。

 

「更年期世代の女性がどれだけ意識を高めてセルフケアをしても、環境によるストレスなど回避できないことはあります。女性自身が改善していく個人ベースの取り組みから、企業や組織、社会の環境づくりに取り組んでいく必要があると思っています。今回の結果をもって社会や組織の認識がじわじわ変わっていくようなムーブメントを起こしていけたらいいなと思っています」(明日 わたしは柿の木にのぼる・小林)

 

「まだまだ女性自身も企業の中でも、“更年期”という言葉に無意識の偏見があるような気がするのです。腫れ物扱いするのではなく、ニュートラルに捉えて、健康に目を向けていくことは、女性だけでなく男性も含むあらゆる人の働きやすさにもつながると思っています。企業や自治体の仕組みに落とし込むことで、女性自身も見逃しがちな不調のサインに気づき、適切なケアをしていく。今回の実証結果と冊子をきっかけに、更年期と睡眠を組み合わせて、働く人たちの健康課題の解決に向けた取り組みをしていきます」(パラマウントベッド・大槻)

 

text by 徳 瑠里香 photo by 三浦咲恵

 

大槻朋子


パラマウントベッド株式会社経営企画本部事業戦略部マネージャー/睡眠改善インストラクター

新卒でパラマウントベッドに入社、九州エリアでの介護領域セールスを担当後、健康事業に移動し、よりよい眠りの提供を目指す「Active Sleep」のブランドプロジェクトに参加。経営企画本部へ移動し、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)としてパラマウントベッドヘルスケアファンドを立ち上げる。また、sleep×femtechのプロジェクトを始動し、人生を通じた女性の健康を睡眠でサポートするブランドの立ち上げを目指す。

 

小林味愛


株式会社陽と人代表取締役

国家公務員として衆議院調査局、経済産業省などで勤務後、日本総合研究所に転職。地域活性化、地方創生への関心を高める。東日本大震災の経験がきっかけになり、福島県国見町を拠点に「陽と人(ひとびと)」を起業。地域の農産物の価値を広く伝える事業に取り組み、デリケートゾーンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」を展開する。

 

吉川 千明さん


美容家/認定メノポーズ(更年期)カウンセラー

コスメのみならず、食、女性医療、漢方、植物療法、ファッション、インテリア、旅とナチュラルでヘルシーな女性のライフスタイルを提案。 植物療法を学んだ後、日本初の女性専用漢方薬局を開設。1990年代より、オーガニックコスメと植物美容を日本に広げたナチュラルビューティの第一人者。 2000年の産婦人科医対馬ルリ子先生との出会いを機に、女性の健康啓発に関わる。2002年から始めた「女性ホルモン塾」は通算150回を数える。植物と美容の専門家。最新書に「閉経のホントがわかる本」(集英社)がある。

 

宗田聡先生

医学博士

広尾レディース院長、茨城県立医療大学客員教授、東京慈恵会医科大学産婦人科非常勤講師。日本産科婦人科学会専門医、臨床遺伝専門医・指導医、産業医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)。日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌やWEBなどで女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には、『産後ママの心と体をケアする本』『産後うつ病ガイドブック』『これからはじめる周産期メンタルヘルス』『31歳からの子宮の教科書』など。

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