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高齢出産でも自然分娩でトラブルなし。
産科医が実践する、オキシトシンの働きで“母子に優しいお産”とは?

2021.12.28

デリケートゾーンから知る、わたしの心とカラダ

湘南鎌倉バースクリニックの院長で、幸せ・愛情ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の働きによって、“母子に優しいお産”を実践する産婦人科医、日下剛先生。女性のための医療研究グループ「天使のたまご」の代表で医学博士・鍼灸師の藤原亜季先生。西洋医学と東洋医学のプロフェッショナルであるおふたりはご夫婦で、2021年2月にお子さんが生まれました。

 

高齢出産でありながら、「オキシトシン」の力を活かして、いきまずに会陰切開も吸引分娩もしない、自然分娩の“母子に優しいお産”を実践。

 

以前お話しを聞いた「いきまず会陰切開もしないお産のかたち。健やかな妊娠・出産・子育てを迎えるために大切な「オキシトシン」とは?」の続編として、おふたりに妊娠・出産・子育てについて語ってもらいました。

 

27歳の頃より42歳の今のほうが、産前産後の調子がいい!

 

15年前に第一子を出産して以来、二度目の今回の妊娠・出産を振り返ってみて、どうでしたか?

 

 

藤原: 27歳で第一子を出産したんですが、妊娠がつらくてつらくて。産後はゆるんだ骨盤に会陰切開の傷も気になって、心身がボロボロでした。「みんなこんな大変な想いをしているの!?」と衝撃を受けたことから、東洋医学やアロマセラピーの知恵で妊娠中からお母さんたちのケアができるように鍼灸サロン「天使のたまご」を立ち上げたんですね。

 

それから15年以上妊産婦さんのケアに携わってきて、第二子の出産を迎えたのは42歳でした。高齢出産なんだけど、自分でもびっくりするくらい、なんのトラブルもなくて。出産も時間はかかったけど、自然分娩でいきまずするりと産むことができました。妊娠中もストレスがなくてめちゃくちゃ楽しくて、このままずーっと妊婦でいい!って思ってました(笑)。

 

ええ! その違いってどこにあるんでしょう? 

 

藤原: そもそも27歳のときは予期せぬ妊娠で戸惑いが大きかったんですが、今回は、不妊治療をして、流産も経験した後の待望の妊娠だったので喜びが大きかった、ということもあります。あとはやっぱり私自身、産前産後のケアの知識もあったし、“ママと赤ちゃんに優しいお産”を実践する日下がそばにいたことも安心感になりました。

 

15年前より着実に歳を重ねているのに、幸せなお産ができて、産前産後も調子がよくって。知っているか知らないか、ケアをして環境を整えることで、こんなにも差がでるんだ、ということを実感しましたね。

 

知識がなくても成立していた妊娠・出産のしくみ。その原理原則とは?

 

妊娠中はどのように過ごしていたのでしょう?

 

藤原: 日下にずっと言われ続けていたのは、ストレスを溜めないように、とにかくがんばらなくていい、ということ。仕事もセーブして、ぐうたら過ごしていました。

 

ぐうたら!

 

 

日下: 42歳で高齢出産だし、トラブルを回避するためにもいろいろやらないといけない、と思うでしょ? 足がむくんだら一生懸命歩こうとかスクワットしようとか。でもね、違うんです。がんばらなくていい。あれもしなきゃこれもしなきゃと詰め込んでは自分にプレッシャーをかけてしまいますよね。一番の問題は不安と緊張。つまりストレスです。だから、できる限りストレスを溜めない生活を心がけることが最優先なんです。

 

もともと妊娠・出産のしくみは、人間が医学的な知識を持つ前から機能していたもの。知識や教養がなくても、大多数が自然の摂理でうまくいってきたはずです。野生動物たちはあたりまえにお産をするでしょう? 証明はできませんが、動物たちは、お腹の中に赤ちゃんがいるとわかって妊娠やお産をやっていないと考えられます。人間の中にも、今でもたまに、出産直前まで妊娠に気がついていない女性がいるんですよ。自分のお腹の中に赤ちゃんがいることは生き物として自動的にわかることではなく、学習しないとわからないことなのです。

 

そうしたことから、妊娠とお産はもともと、親がお腹の赤ちゃんの存在を知らない状態で営まれてきたしくみで、私たちのように妊娠に気がついてお産をするのは、生き物として極めて特殊なケースと考えられます。そこから導き出される、妊娠とお産の成功の秘訣、根本原則は、できるだけ野生動物の行動をまねることです。具体的な例を出して説明します。

 

たとえば、つわりはなぜ起きるのでしょうか。医学的には解明されていませんが、進化論的に考えてみましょう。ほかの多くの哺乳動物にも妊娠初期に食欲低下や吐き戻し、活動低下といったつわりのような状態があることは、動物たちに関わる仕事に従事している人たちは経験的に知っています。そして、つわりは赤ちゃんが薬などの悪影響を受けやすい時期に一致しています。妊娠は野生の環境で、かつ、妊娠していることに気がついてなくても大多数がうまく行ってきたしくみです。野生の環境では妊娠初期に食べ物や飲み物を取ること自体が赤ちゃんにとって危険でしょう?

 

つまり、つわりはもともと、赤ちゃんが有害物質に敏感な妊娠初期に外からの危険を排除するために、吐き戻しや食欲を低下させる。また、母体に貯蔵された安全な栄養を送るために、母体の活動性を抑え具合を悪くして休ませる。つまり、母親が気づいていなくても赤ちゃんを守るしくみだと推測できます。動物は感情に従って動きますから、休むことで、必要なエネルギーを赤ちゃんに供給しているのです。でも、人間は知識と教養をもって、妊娠という事実を知り、どの食べ物や飲み物が赤ちゃんに有害か判断できる。だから進化の過程で必須ではなくなって、つわりがひどい人もいればほとんどない人もいて、個人差が生まれたとも考えられます。

 

 

なるほどー。たとえ、つわりがあっても、人間は仕事や家事、やることが目の前にあると、頭で考えて、身体が動いちゃうこともありますよね。妊娠中、仕事をしたり人に会っているときは大丈夫なのに、帰宅したとたんどっと疲れてソファから起きられなくなることがありました。

 

日下: そう、動物と違って人間は理性がありますから、無意識のうちに頭で考えて感情を抑えて、無理に行動ができちゃうんです。でも無理をすると、エネルギーを消費した分、反動的にどっと疲れがでたり、なんらかの母子のトラブルにつながってしまう可能性があるんですね。

 

こうしたことを踏まえて考えてみると、妊娠出産がうまくいく秘訣は、動物に倣って感情に従って行動しつつ、人間としての現実に折り合いをつけながら過ごすこと。我々はどうしても、完全に動物のように働き暮らすことは難しいですからね。それでもできる限り、体と心が求めているときはちゃんと休んだほうがいい。

 

妊娠中はいつも通りにいかなくて当たり前。がんばらず、ストレスを溜めずに過ごす

 

藤原先生は実際に、どんな妊婦生活を送っていたのでしょう? 東洋医学に基づくケアもされていたのでしょうか?

 

藤原: 天使のたまごには毎週通ってケアを受けていました。あとは、ヨガやプールにも通って、自宅でもヨガのポーズを取ったり瞑想をしたり。適度に体を動かして、食べたいものは我慢せずに適度に食べて、規則正しい生活を心がけていましたね。1人目のときはストレスで食べすぎちゃって20kg増加したんですが、今回は、心身の状態が整っていたこともあり適正体重の12kg増におさまりました。糖尿病や高血圧になることもなく、トラブルもなく順調でしたね。

 

 

日下: 運動しなきゃと言って、無理に疲れるほど動く必要はないんです。心地いいくらいでやめておくのがちょうどいい。妊娠7ヶ月くらいになったら、リラキシンってホルモンが出て胎盤をゆるめ産道の準備をちゃんとしてくれますから、産道を開くために歩かなくても大丈夫。

 

藤原: 1人目のときは、思い通りにいかないことでなんでがんばれないんだろうって自己嫌悪に陥って、それがストレスでした。だから今回は私、妊婦だからぐうたらするね!って宣言して、仕事も家事も堂々と休んでました。妊娠期をポジティブに楽しもうと、マタニティファッションを取り入れたり、旅行に出かけたりも。

 

日下: 妊娠中は、自分の体の中でエネルギーをどこに分配するかが肝になるんです。このことは血液をどこに分配するかとほぼ同じです。でもそれは、私たちも他の動物たちと同じで意図的に分配できない、自動のしくみなのです。妊娠中に頭がぼーっとするのは、赤ちゃんに必要な血液を子宮に送っているから。当然判断力はにぶるし、普段通りにできなくて当たり前なんです。

 

藤原: 赤ちゃんに血液を送っていることを考えたら、ぼーっとしているのも仕方ない。妊娠中に車を運転していて、一方通行の標識を確認しているのに、通行しちゃっておまわりさんに止められたことがあったんです。おまわりさんも「ちゃんと止まってたのにね」って言ってましたけど、思考が回らなくて。自分でもびっくりしましたが、もちろん気をつけつつ、赤ちゃんに血液を送っているからだ、と自分を責めず失敗も許容していました。

 

日下: 妊娠中は、疲れたら休んで、ストレスを減らすために嫌なことはしない。仕事や家事育児は頼れる人に罪悪感を抱かずに頼む。周囲の理解も必要ですが、可能な限り、がんばらずに過ごしてください。

 

実践!「オキシトシンで産む」。12時間を要しても、赤ちゃんは元気に誕生

 

出産はどうでしたか?「オキシトシンで産む」ことは実践できたのでしょうか?

 

藤原: 妊娠中から「オキシトシンで産む」ことを意識していましたから。排便のときもいきまないようにしたり、こまめにストレスケアをしたり。

 

出産は、予定日の1日前に破水したんですが、そこから天使のたまごでマッサージを受けて気持ちがいい〜ってリラックスして、セルフでお産に効くツボを刺激したりもして。夕方くらいから陣痛がきたんですが、その間もヨガのポーズをして血行をよくしていました。

 

病院についてからは、「時間の概念を持っちゃいけない」「頭で考えちゃいけない」と言われていたので、できるだけ頭をからっぽにするようにして。妊娠中に研究していたラクなポーズ、大きめのクッションにうつぶせでもたれかかって全身に力を抜く姿勢でだらんと過ごしていました。

 

日下: 頭で考えるとどうしても血液が脳に行ってしまうのでね。自分の活動を抑制して、消費量を抑え、赤ちゃんがいる子宮に血液を送るためにも、何も考えず、ごろごろ力を抜いて過ごしたほうがいい。陣痛の痛みあるから、完全にリラックスするのは無理なんですけれど。

 

 

藤原: 結局、息子は頭が大きくてなかなか出てこず、12時間かかりました。経産婦なので5〜6時間かなぁなんてと言われてたんですけどね。時間は見てなかったけど、長かった(笑)。でも、最後はいきまずにするんと誕生。リラックスしてオキシトシンで産むことができました! おかげで長時間かかったものの赤ちゃんに酸素がいかなくなって弱ることもなく、会陰切開も吸引分娩も必要ありませんでした。寝不足ではあったけど、母子ともに元気で、心身への負担は少なかったですね。

 

日下: 無事、オキシトシンで産めましたね。ところで、女性の人生の中で、一番オキシトシンが出ているのはいつだと思います?……胎盤を出すときなんです。地味でしょう。赤ちゃんを出すときの圧力は60〜70mmHgで、胎盤を出すときは150mmHg以上。赤ちゃんが出る前に胎盤が剥がれたら生きられなくなっちゃいますから、胎児より胎盤を出す圧力のほうが強いんですね。つまり、産後すぐはオキシトシンの分泌量も多い。

 

藤原: だからか、産後すぐに胸のそばに息子がきたのですが、ものすっっっごいいとおしくて幸福感に包まれました。これもオキシトシンの力なんだと思います。

 

 

妊娠中含め母子はサポートされる存在。罪悪感を抱かず頼っていい

 

産後もオキシトシンの力が働いているのでしょうか?

 

藤原: 妊娠中から出産、産後まで地続きでリラックスして過ごせているので、オキシトシンは出続けていると思います。産後の授乳も、8ヶ月にしてミルクをあげたのは生まれた当日の1回だけで、1人目よりよく出ますし。育児もできるだけストレスを溜めないことを心がけていますね。

 

日下: もともと妊娠出産を経た子育ては大家族でやることが前提にあるしくみです。いまでもアマゾンやアフリカに住んでいる民族は、村全体で子育てをしていて、もらい乳も当たり前。乳飲児も幼児も親だけで育ててはないんです。妊娠中含め母子はサポートされるものだし、めんどうなことは周囲に押し付けちゃっていい。

 

藤原: 我が家は自宅の近くにマンションを買って母を京都から呼びつけましたから。それくらい頼っていいって日下に言われて、いいんだって思えました。

 

日下: 家族に頼れなかったら、代わる社会インフラ、保育園はもちろん、ファミリーサポートのような行政サービス、民間のシッターサービスや家事サポートなど利用したっていい。そこに罪悪感は抱く必要はありません。人類の歴史的にもひとり、あるいは親だけで育てるのは困難が生じるしくみになっているんですから。

 

藤原: あと、産後はどうしても自分のことは後回しになりがちなので、意識して自分をケアして労る時間を持っています。「病は気から」と言われますが、その逆もあって、体が健やかだとメンタルも整っていく。やっぱり心と体はつながっているので、どちらも蔑ろにせず、自己犠牲をしない、ママひとりの時間も大事。

 

できる限り環境を整えて、頼れる人には頼って、ストレスを溜めないこと。これは妊娠中から産後にいたるまで、ブレずに大事なことだと、自分の2回の妊娠出産の経験の差をもって、実感しています。

 

 

text by 徳 瑠里香 photo by 川島 彩水

 

日下 剛(くさかたけし) 先生 / 藤原 亜季 先生

日下 剛(くさかたけし) 先生
産婦人科医、医学博士
1967年北海道生まれ。旭川医科大学医学部を卒業後、北海道大学大学院に在籍して産婦人科研修と医学博士取得。その後、湘南鎌倉総合病院産婦人科部長として勤務ののち、2016年5月から湘南鎌倉バースクリニック院長として、赤ちゃんに優しいお産の普及に取り組んでいる。

藤原 亜季 先生
医学博士、鍼灸マッサージ師、「女性のための健康医療研究グループ天使のたまご」代表。
1978年京都府生まれ。自らの妊娠・出産を機に、2006年、東京・銀座に妊婦専門治療院を「天使のたまご」を開設。40才を超えての不妊治療を経て15年ぶりの妊娠・出産を経験。産後にプロデュースしたマタニティケアを自ら堪能!東洋医学とアロマセラピーを融合したメンタリティに配慮した独自のメソッド゙で、妊娠しやすい心と身体づくり、 妊娠中のマイナートラブルの解消、そして産後のケアまで、女性の健康と美容をトータルにサポート。マタニティケアの第一人者として臨床に携わる傍ら、学術研究や講師活動、妊婦や子ども専用の商品企画および開発、テレビや雑誌などメディアなどでも広く活躍している。

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