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女性がぶつかるキャリアの壁。
その背景にあるジェンダーギャップを解消するために

2022.02.08

わたしたちを取り巻く社会のこと

働いているのに生活がままならない。仕事と子育てに追われて毎日くたくた。このまま仕事を続けられるのだろうか。

 

働く女性がぶつかる壁の背景には、ジェンダーギャップが開いた日本の社会構造、男性を基準とした働き方がある。

 

長年女性のライフキャリアをテーマに取材・執筆を続けてきたジャーナリストの白河桃子さんはそう指摘します。働く女性はいまどういう状況にあるのか。ジェンダーギャップを解消するために、国、組織、個人として、どんな行動が必要なのか。詳しくお話を聞きました。

 

「ガラスの天井」と「張り付く床」。日本の女性がぶつかるキャリアの壁

 

女性のライフキャリアを長年追ってきた白河さんはいま、日本の働く女性を取り巻く環境をどのように捉えていますか?

 

世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数、日本120位(156カ国中)。この順位がすべてに影響していると思いますね。都心から地方の隅々まで根づくこの男女格差が最悪のかたちで顕在化したのが、今回の新型コロナウイルス感染症です。コロナ禍は「女性の危機」でもあるんですね。

 

まず、経済不況と雇用減少。その影響を最も受けたのは女性、特に非正規雇用の女性たちです。飲食業や宿泊業、生活や娯楽のサービス業など壊滅的なダメージを受けた業種は女性の就業率が高く、6割弱の女性は雇用調整の対象になりやすい非正規雇用で働いています。2020年末の時点で、女性の雇用は最大74万人が失われ、その数は男性の2倍ですからね。

 

それから家庭においても、保育園や学校が休みになったことによる家庭内の子育ての負担、外食の機会が減ったことで増えた家事の負担、そのほとんどを女性が担っています。その大変さから、家庭か仕事かの二択の選択に迫られている女性も少なくありません。

 

また、コロナ禍での自粛生活のストレスから、女性への配偶者からの暴力も増えている。内閣府の調査によれば、女性の4人に1人(22.5%)は配偶者DVの被害経験があり、2020年の相談件数は19万件で前年比1.6倍となっています。自殺者数も、男性が前年比で23人減少したのに対し、女性は935人増加していているんですね。

 

 

特にシングルマザーは、雇用についているのに貧困状態にあります。厚労省の調査によれば、ひとり親世帯の2人に1人(50.8%)が相対的貧困にあり、その80%が就業しているにもかかわらず、非正規の場合の年収は133万円となっています。そこにきて、コロナで職を失い、休校で食費が増えた家庭も多い。コロナ禍、密になりやすいということで地域の「子ども食堂」は続けられなくなったけど、見るに見かねて「フードバンク」に鞍替えして、お弁当や食料を配っていたところもありました。

 

女性のライフキャリアの課題には、資質や実績があっても昇進できない組織内の壁「ガラスの天井」と、最低賃金から抜け出せない「張り付く床」のふたつがあるんですね。今回のコロナで露呈したジェンダーギャップは、一番弱いところを直撃したんです。

 

女性活躍の歩み。女性が“イレギュラー”あるいは“無理を強いられる”制度設計の限界

 

職を失ったり、子育ての負担が増えて仕事がままならなくなったり、どうしても目の前に課題があると個人の問題として捉えてしまうことがありますが、働く女性が「ガラスの天井」あるいは「張り付く床」にぶち当たってしまうのは、ジェンダーギャップが開いている社会の構造の問題、ということですね。

 

その通りです。女性個人の尊厳や選択の自由が重視されていない結果がこうして社会に現れているんです。政府による再分配もうまくいっていない。一括で10万円を支給する焼け石に水ではなく、根本的に再分配を見直さないといけないと思います。こうした政策決定をする場に女性がほとんどおらず、高齢の男性ばかりに決定権があること、つまり政治におけるジェンダーギャップの影響がここにも出ているわけです。

 

ガラスの天井に関して、女性活躍推進の取り組みが国や企業などでもなされていますが、過去からの流れも含め、その動きをどう見ていますか?

 

過去30年を振り返って、女性活躍の原点は、1985年に制定された男女雇用機会均等法です。でもこれは、“24時間働けるいつでも転勤可能な”男性の働き方に合わせる女性だけが“均等”に扱われた。出産育児をしながらの長時間労働や転勤は難しく、会社を辞めてしまう女性たちが多かったわけです。

 

そこから1995年に育児介護休業法ができて、2010年に短時間勤務制度ができて、ようやく育児や介護を担う女性たちが正社員として企業で働きやすくなりました。ただそれは、“イレギュラー”な存在として、脇道をつくっただけ。どうしても王道からは外れてしまい、管理職になることは難しい。産むことと働くことはできても、活躍まではできなかったんですね。

 

そこへ2016年に女性活躍推進法ができて、いきなり脇道から王道へ行けと言うわけです。残業が当たり前の制限速度のない高速道路のような道に流入しろと言われても、家庭で家事育児を担う女性には難しい。昇進しても女性が無理を強いられるだけです。

 

私がここ最近思っているのは、女性だけにスポットを当てた制度設計によって、女性が変わるのではなく、男性を含めた組織全体が変わらないといけない、ということです。そもそも管理職やプロフェッショナルのあり方が、妊娠出産で8週間休まない、日々の子育てに関与しない男性が基準になっているのが問題です。働くメンバーの構成が変わっているんだから、ルールも変えていかないと。

 

男女ともに労働時間の見直しと「男性の家庭進出」が鍵になる

 

女性活躍は女性だけの問題じゃない、ということですよね。具体的にはどんな制度設計や変化が必要だと思われますか?

 

一番大事なのは、労働時間の見直しと環境整備です。働き方改革である程度は進んでいると思いますが、残業に上限を設けて長時間労働を是正し、男女ともに働きやすい環境を整え、時間あたりの生産性を上げていくこと。テレワークなど時間と場所に縛られない働き方や理由を問わない休職や再就職制度も必要です。コロナ禍でテレワークが増えて働きやすくなった側面もありますよね。

 

それから働き方を柔軟にする上では、年功序列を廃止して、積み上げてきた年次や時間で評価するのではなく、柔軟に昇進や活躍のチャンスを与えることも求められるでしょう。

 

環境の中には、家庭も含まれていて、男性が家庭にいる時間を増やして家事育児に関与する。それができなければ外注するとか、家庭における女性の負担を減らさないと。

 

よく「女性特有のライフイベント」と言うけど、そもそも妊娠出産は女性にしかできないけど、子育ては男性にもできますからね。京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授は、親として子育てに適した脳に発達するのに、生物的な男女の差はないことを発見しました。性差ではなく関わる時間と経験値によって脳が発達する、と。つまり、女性が必ずしも子育てに向いているわけではなく、男性も子育てに関わる時間が増えれば、同じように脳が発達していくのです。

 

 

2022年からの育休法改正で男性育休(生後8週間のうちの4週間まで)が制定されたのは、非常に有益だと考えています。男性の家庭進出が産後うつによる自殺を防ぐ効果があることが一押しになったようですが、育休取得は、男性にとってもワークライフバランスを考えるいい機会になる。男性の中にも、ずーっと上り詰めないで、立ち止まったり降りたりする人がでてきていいと思うんです。男性のそうした選択は、女性が仕事に関わる時間も増え、ジェンダーギャップの解消にもつながるはずです。

組織の中、そして個人の中にある「アンコンシャスバイアス」に気づく

 

同時に、個人としても、家庭と仕事が分離していて、どちらも滅私奉公のように時間を割いてやらないといけないとか、みんなも我慢しているから仕方ないといった思い込みは捨てていかないといけない。

 

組織の中にも、個人の中にも、無意識の偏見や思い込み「アンコンシャスバイアス」は必ずありますから。上司の「女性が管理職になってくれない。子育てをしたがっている」というのは最たるアンコンシャスバイアスですよね。そうさせている、社会や組織の構造の問題にまったく目が向いていない。

 

逆に管理職を打診された女性が「自信がないからできない」と思うこともあるでしょう。でも、それはおそらく周囲にいる男性の管理職と比べているから。でも男性管理職と同じようにやる必要はないんです。男性と同じだったら、男性でいい。女性のあなたが昇進すること自体が、組織に多様性をもたらすことになる。そのことに組織も女性自身も気づかないまま、表面的な女性活躍を進めているパターンも多いと思いますね。

 

女性が出産や子育てを機に仕事を降りることを「選んでいる」のではなく、両立の難しさから「選ばされている」ということを改めて認識させられます。

 

性差をなくすのではなく活かし、「当たり前」を変えていく

 

とはいえ、女性と男性には性差がありますよね。その性差によって女性が経済や政治に参加できないのは大きな損失なんです。よく企業のトップに「女性が管理職になったことで、どれくらい株価が上がりますか?」と聞かれますけど、グローバルではジェンダーが多様な組織のほうが、持続的な経営にも経済価値にもいい影響をもたらす、というのがエビデンスも含めスタンダードです。

 

性差は「なくすもの」ではなく「活かすもの」。近年は、これまで見逃されていた女性の課題を解決する「フェムテック」(FemaleとTechnologyを合わせた造語。女性が抱える身体の悩みを解決する製品やサービスのジャンル)が盛り上がりを見せていて、希望を感じています。女性の身体に着目し、女性の起業家や研究者が立ち上がっているケースが多いので、いろんなビジネスチャンスが生まれると同時に、社会で活躍する女性も増えていく。いい循環ですよね。

 

ただ、シリコンバレーでインキュベーターをやっている知人と話していたら、フェムテック分野における女性の起業は増えているけど、まだ女性の投資家は少ないと。男性だとピンとこない人も多いので、活動を後押しする投資家にも女性が増えてほしいですね。

 

あらゆる分野に女性が進出することで変わってくる世界がありそうですね。私たち働く女性、男性もそうだと思うのですが、個人の働き方の選択が、国や企業の制度やジェンダーギャップに紐づいていることがよくわかりました。社会の構造の中にいる、一個人としてできることはあるのでしょうか?

 

ありますよ。すぐには社会の構造は変わらないけれど、これまでも少しずつ変わってきたわけです。特権を持っている人は気づかないけれど、違和感があって、子どもの世代によりよい社会にしたいのであれば、流れに抗っていかないといけない。何もしなければ変わらないままですから。

 

わかってくれない人とぶつかって傷つく必要はないけれど、共感できるプロダクトを見つけたら買ってみるとか、社会的な活動する人に寄付をするとか、SNSで言及するとか拡散するとか、そういう小さなことも、社会の流れを変えていく一つの行動です。身近でジェンダーギャップに苦しんでいる友人がいたら、「みんな我慢しているからしかたない」ではなく「それはおかしいよ」って寄り添うのもいいと思いますし。

 

これまで「当たり前」とされてきたことに疑問を抱いた人が「おかしくない?」と声を上げ、賛同する人たちが増えていくことで、社会は動いてきました。自分たちが置かれている状況を認識しながら、違和感を抱いたら、可能な限りで声を上げていく。そうやって個人から、社会のいまの「当たり前」を変えていくことはできるはずなんです。

 

text by 徳 瑠里香

 

白河 桃子さん

相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、少子化ジャーナリスト

東京生まれ、慶応義塾大学。2020年に中央大学ビジネススクール MBA修得。少子化、働き方改革、ジェンダー、アンコンシャスバイアス、女性活躍、ダイバーシティなどがテーマ。山田昌弘中央大学教授との共著「婚活時代」で婚活ブームを起こす。内閣府「男女共同参画重点方針調査会」内閣官房「第二次地方創生戦略策定」総務省「テレワーク普及展開方策検討会」内閣官房「働き方改革実現会議」など委員を歴任。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋』『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』『女子と就活』『産むと働くの教科書』など多数。

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