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がんばりすぎずに「気を抜く」。
老化曲線をゆるやかにする「漢方養生」のすすめ

2022.05.15

デリケートゾーンから知る、わたしの心とカラダ

30歳を超えて気力と体力は下り坂。仕事でも20代のような無理がきかなくなってきて、休日に思いきり遊んだ翌日はなんだか心身がぼーっとしてしまう、なんてことも。病気ではないし、誰かに相談するほどのことでもないけれど、なんとなく不調を感じる。ただやり過ごしていくしかないの?

 

そんな問いに答えてくれたのは、東京女子医科大学附属東洋医学研究所 所長・教授の木村容子先生。生理不順、妊娠出産、更年期……。女性特有の揺らぎや加齢に伴う老化、歳を重ねるたびに増えていく小さな不調に寄り添ってくれる「漢方養生」について教えてもらいました。

 

体の変化を前提に、適切なケアで老化の速度をゆるめる「ポジティブ・エイジング」

 

年齢を重ねるたびに、なんとなく感じる小さな不調が増えている気がしています。そもそも漢方医学の「不調」の捉え方から教えていただけますか?

 

はい。まず漢方医学は「体は変化していくのが当たり前」で「過去、現在、未来のわたしは同じではない」という考え方を基本としています。日本の漢方医学の基になっている中国伝統医学が発祥した約2000年前から、女性の体は7年ごとに変化があると言われているんです。

 

(参考:『女40歳から「不調」を感じたら読む本』静山社)

 

7歳で歯が生え変わって、14歳で月経がはじまり、21歳で女性らしい体になり、28歳で体や性の機能がピークに。35歳で顔がやつれて脱毛がはじまり、42歳で白髪になり、49歳で閉経する、と。つまり、28歳でピークを迎えてからは、気力も体力も下がっていきます。

 

年齢を重ねて体が変化していく過程で、漢方医学は病気だけではなく、病気と健康の間の「未病」、つまり「なんとなくの不調」にもアプローチしていきます。病気じゃないけれど疲れやすい、肌がくすむ、冷えるといった加齢に伴う老化の症状も治療範囲になります。ですから小さな不調も「気のせい」「年齢のせい」と片付けずに、漢方治療に詳しい医師にたずねてみてください。対処法はいろいろあるかと思います。

 

とはいえ、漢方で老化の逆を辿るように「若い頃の状態に戻す」ことはできません。時計の針を戻すことはできないけれど、養生次第で、28歳のピークを超えてからの老化曲線をゆるやかにしていくことはできます。加齢によって体が変化していくのは当たり前。抵抗はできないけれど、適切なケアを前向きに取り入れて、老化の速度をゆるやかにしていくことを、私は「ポジティブ・エイジング」と呼んで提唱しています。

 

自分の心身に何が起きているのか。不調を自覚することがスタートライン

 

アンチ・エイジングではなく、ポジティブ・エイジング! 加齢による心身のおとろえをゆるやかにしていくために、何から始めればいいのでしょう?

 

漢方医学の根底には「一人ひとりは違う存在である」という考え方があります。西洋医学では、採血など客観的な数値によってさまざまな患者さんがもつ症候や所見を基にひとつの「病気」として治療するケースが多いですよね。治療もたとえばがんに対しては抗がん剤や放射線治療など病気の原因にシャープにアプローチしていきます。

 

一方、漢方医学は、患者さんそれぞれの体質や心身全体のバランスを総合的に捉えて、一人ひとりオーダーメイドでアプローチしていきます。たとえば同じ「便秘」という症状であっても、それが冷えからくるものなのか、鬱々とした気分からくるのか、気候の変化によるむくみからきているのか、人によって要因は異なります。便秘以外にどんな症状が重なってくるのかによって判断していくんですが、患者さんの心身全体に何が起きているのかを捉えることから、養生や治療のアプローチが変わってきます。このため、まずは自分の症状や心身の状態を知ることがスタートラインになります。

 

また、西洋医学の標準治療が上手くいかないときには、自分の心身のバランスが崩れている場合があります。たとえば、冷えがあったり、胃腸の働きが弱かったりするために、西洋医学の治療の効果が発揮できていないことがあります。そのようなときには、漢方治療で心身のアンバランスを治すことで、西洋医学の治療効果が高まります。

 

なるほど。まずは、自分の心身の状態を知る。その点、東洋医学研究所では、通院する際に、4枚にわたる問診票を書くんですよね。

 

そうなんです。自分の体は自分が一番知っているはずなのですが、自分のことだからこそ生じる甘えや過信があったり、また、若い頃のイメージのまま止まっていることもあり、その結果、今の自分の状態を客観的に評価することができなくなります。詳細な問診票に答えていくことで客観的な視点で自分の体を観察できるようになる。最初は体からのサインを積極的にキャッチできなくても、次第に、口が粘るな、生理痛がひどくなっているな、肩が凝るな、と不調に気づいていけるようになる患者さんは多いです。

 

漢方治療は患者さんと二人三脚になります。オーダーメイドだからこそ、患者さんが自身の症状や状態がわからないと治療もうまくいきません。患者さん自身の自覚症状が大切な情報になります。体が発するサインに気づけたところから、早めにアンバランスを治して整えていくことができれば、老化曲線もゆるやかにしていけるでしょう。

 

漢方養生の鍵は日々の生活にアリ。食事、睡眠、運動、感情をコントロールする

 

自分の体が発するサインに気づき、早めにバランスを整えていくために、漢方養生としてはどんなことができるのでしょう?

 

漢方医学には「心身一如」、「心と体は一体である」という考えがあり、心身全体の調和をはかることに治療の目的が置かれています。その一つの指標となるのが、「気・血・水」、生命活動を営むエネルギーである「気」と血液の「血」、血液以外の体液である「水」のバランスです。この3つが過不足なく滞りなく体の隅々まで巡っている状態を「健康」と捉えます。逆にこのバランスが崩れると、体に変調がおきてくる、と考えます。

 

生命の源とも言える「気」は元気、気分、気持ちの「気」なんですが、これを補っていくのが食事と睡眠なんです。家事に仕事に忙しくて、睡眠不足だったり食事内容が偏ったりすると「気」が補えなくなって、老化曲線は下がりやすくなります。

 

漢方養生のベースとなるのは「食事」「睡眠」「運動」「感情」のコントロールです。生活の中でこれらをうまくコントロールしながら、気・血・水を補い巡らせることができれば、健康を保ち、加齢に伴う老化をゆるやかにすることができると考えられています。

 

感情のコントロールとは、具体的にどんなことですか?

 

漢方医学は中庸で、過ぎたら及ばざるの如し。色々な感情を持つことは大切ですが、感情の振れ幅が激し過ぎるのも体に負担になります。「喜」「怒」「思」「悲」「憂」「驚」「恐」の七情の揺れが度を越えると病気の発生や老化を早めることにもなると考えられています。だからコントロールが必要。

 

たとえば春は五臓六腑のうち「肝(かん)」と関わりが深く、自律神経の働きに関与するので、春は自律神経の働きが乱れやすく、イライラしやすい季節です。怒りやすくなったときには「酸味」が効くので、酢の物を積極的に摂る。夏は「心(しん)」に関係があって、喜びが高まりやすい。喜ぶことは良いことなのですが、喜び過ぎるとどきどきして心臓に負担がかかります。そういうときはゴーヤなどの「苦味」がよいです。秋の病は「肺(はい)」と関連があって、悲しくなりやすい。梨やれんこんなど「白い食材」で肺をうるおしましょう。冬の病は「腎(じん)」に関係があって、恐れを抱きやすい。腎を補うのは黒豆や牡蠣など「黒い食材」です。

 

 

季節の移り変わり、気候の変化は私たちの心身にも影響を及ぼしている、と。そしてその揺れは旬の食材を摂ることでゆるやかにしていくことができるんですね。

 

「医食同源」ですので、食事はとても大切です。しかし、いろいろな症状があるときに、すべてを食事で補うことは難しいですよね。漢方治療では生活の仕方、すなわち養生が第一ですが、養生をしても足りないところは、漢方薬や鍼灸によって補って巡らせていこう、というのが基本的な考えです。

 

補い巡らせ、本来持っている力を最大限引き出すサポートをする漢方薬

 

漢方薬についても教えていただきたいです。漢方薬にはまずい、苦い、といった印象もありますが……。

 

漢方薬は草や木、鉱物などの生薬を組み合わせたもので、以前は毎日煎じていましたが、今は顆粒にしたエキス製剤が主流です。漢方エキス製剤は白湯に溶かして飲むと本来の煎じ薬と近いものになります。漢方薬は苦いというイメージがあるかと思いますが、症状にぴったり合う漢方薬の味や香りに違和感を覚えることなくすっと飲めることが多いんです。症状が緩和して必要なくなると味覚が変わってまずく感じることも。お子さんは特に顕著で、体調が悪いときはごくごく飲んでいたのに、必要なくなると見向きもしない、というケースもありました。医食同源ですが、漢方薬も薬ですので、漫然と飲み続けるのではなく、適時・適量に使用することで、漢方薬の効果を最大限に享受することができます。

 

たとえば便秘の症状があったときに、便秘薬を飲むと依存してしまうこともあると思うんですが、漢方薬は徐々に減らしていくこともできる、ということでしょうか。

 

漢方薬は、本来その人が持っている免疫力など体の機能を最大限引き出すサポートをするもので、自分の体に備わっていない機能は引き出せません。バランスが崩れて発揮できていない力を補うためのものなので、改善し整ってきたら飲む必要はなくなり、自分の養生で対応できるようになります。1日3回漢方薬を飲んでいた患者さんが、2回になり、1回になり、飲まなくてもよくなることはよくあります。また別の症状が出てきたときに必要な漢方薬を処方しています。患者さんの中には、20代の頃に生理不順で通い始めて、30代の妊娠中や産後、50代の更年期と、女性特有の揺れに合わせて、大きく体調が崩れないように上手く漢方治療を活用している方もいらっしゃいます。

 

病気ではない女性特有の不調に寄り添ってくれるのは、とても心強いです。漢方医に通いたい、漢方を処方してもらいたい、と思ったらどうすればいいんでしょう?

 

日本東洋医学会のHPでは、都道府県や市町村を入力して、お近くの漢方医を検索することも可能です。お近くのかかりつけ医に相談してみてもいいかもしれません。

 

使えるエネルギーの量には限りがある。無駄にがんばらずに「気を抜く」

 

今後年齢を重ねていって、更年期を迎えるにあたっていまからできることはありますか?

 

私がよく患者さんに言っているのは、「気を抜く」こと。無駄にがんばらない。20代は体当たりでがむしゃらにがんばって経験を積んでいくことが大切ですが、40代くらいになるとそれまでと同じようにがんばっていると体力が持ちません。体力勝負のがんばりではなく、優先順位を決めて、力を抜くところは抜くことが重要になります。今やらなければならないことの優先順位をつけて、全てを自分でやろうとせずに他人に任せたり、後回しにすることも大切です。実は「がんばる」よりも「力を抜く」方が、案外難しく、経験がないと適切に力を抜くことができません。

 

生命活動を営むエネルギーである「気」の総量をボールにたとえたとき、その大きさは生まれたときから個人差があります。「エネルギー・ボール」と呼んでいるんですが、どんな大きさであったとしても、28歳をピークに年齢とともに小さくなっていくんです。

 

気の総量が小さくなっていくと同時に、エストロゲンなどの女性ホルモンが物理的に減少して体が変化していく40代〜50代は、体を調整していくために余分な「気(エネルギー)」を使います。気の最大量を100としたら、更年期のホルモン変動にともなう体の調整にたとえば20くらいを無意識に使っているとすると、残りの80の気で日々の生活を営んでいかないといけない。だから同じことをしていても疲れやすくなります。余分な「気」を使わないように、戦略的に気を抜くことが大事になります。

 

(参考:『女40歳から「不調」を感じたら読む本』静山社)

 

使える自分の気(エネルギー)には限りがあることを認識するだけでも、行動が少し変わってきそうです。

 

更年期のときは、女性ホルモンが減少することによる心身のアンバランスによる症状が火山のマグマのように潜在的に潜んでいます。マグマが噴出するような刺激がなければ爆発はしないんですが、ストレスなどによる自律神経の乱れによって、さまざまな症状が一気に吹き出してしまいます。

 

自律神経を整える手軽な方法は、適度な運動。ランニングなど激しいスポーツをする必要はなくって、ちょっと汗をかくような運動をすることが大切です。あとは、温かいお湯に浸かったあとに冷たいシャワーを浴びる交互浴もいいでしょう。サウナもいいですよ。在宅ワークなどでずっと家にいる人は用事をつくって出かけてオンとオフの切り替えをつくるのもおすすめです。

 

無駄に気を使わず、自律神経の乱れを感じたら、整えていく。

 

あとは積極的に休むこと。休むことが苦手な方も多いと思うんですが、歳を重ねてきたら休養を摂ることも体に必要な「戦略的なメンテナンス」です。明日がんばるために、今日は休む。自分を責めずに、自分にご褒美をあげながら、心身をゆるめていきましょう。

 

 

実は筆者も、東洋医学研究所の木村先生のもとへ通う患者の一人。便秘に肩こり、冷え性に生理痛……。それまでよくあることだとやり過ごしていた「小さな不調」に対して、巡る季節に沿った、その時々に必要な漢方薬を処方してもらっています。通い始めて1年弱。少しずつ自分の体が発するサインに目を向けながら養生し、健やかに過ごせるようになってきているように感じています。生活の中で養生しながら、漢方薬などの治療、伴走者が必要な際は、漢方医に頼ってみることもおすすめです。

 

text by 徳 瑠里香  illustration by 遠藤光太

 

木村容子先生

東京女子医科大学附属東洋医学研究所 所長・教授

東京女子医科大学附属東洋医学研究所 所長・教授。医学博士。内科学会認定医。日本東洋医学会専門医、指導医、理事。福島県生まれ。お茶の水女子大学を卒業後、中央官庁入省(国家公務員I種)。英国オックスフォード大学大学院に留学中、漢方に出会う。帰国後、退職して東海大学医学部に学士入学。2002年から東京女子医科大学附属東洋医学研究所に勤務。2008年より日本初の「漢方養生ドック」をはじめる。著書に『太りやすく、痩せにくくなったら読む本』(大和書房)、『ストレス不調を自分でスッキリ解消する本』(さくら舎)、『女40歳からの「不調」を感じたら読む本』(静山社文庫)、『女50歳からの「変調」を感じたら読む本』(静山社文庫)『漢方の知恵でポジティブ・エイジング』(NHK出版生活人新書)、などがある。

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