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ジェンダーギャップのある社会で、「こうあるべき」に縛られない選択をするために(後編)
浜田敬子さん

2022.10.04

わたしたちを取り巻く社会のこと

時短勤務で働く中、職場や子どもに対して心のどこかで「申し訳ない」と罪悪感を抱き、仕事にやりがいが見出せず、心身が疲労し、子育てとの両立が困難で仕事を続けていく自信がない。

 

そんな働く女性、個人の悩みには、ジェンダーギャップがいまだ世界最低レベル(世界経済フォーラムが2022年に発表した日本のジェンダーギャップ指数は146ヶ国中116位)の日本の社会構造が紐づいています。

 

まだまだ根強く残る「家事育児を担うのは女性」といった性別役割分業の意識。企業の採用・昇進・抜擢におけるアンコンシャスバイアスと統計的差別。そもそもチャンスと経験が少ない女性自身による過小評価。

ジャーナリストの浜田敬子さんにお話いただいた〈前編〉では、私たちを取り巻く社会構造が見えてきました。続く〈後編〉では、「明日 わたしは柿の木にのぼる」代表の小林味愛が聞き手となって、浜田さんと、ジェンダーギャップがある社会で「こうあるべき」に縛られない選択をするために、私たち一人ひとりにできることを考えます。 

 

*TOKYO創業ステーション TAMA Startup Hub Tokyoで開催されたイベント「『こうあるべき』に縛られない自分らしい人生の選択肢」の内容を前後編に渡ってお届けします。

 

男性の育休取得は、組織の中、そして個人の中に多様性を生む

 

小林: 浜田さんのお話を伺って、共感というか、自分も割と典型的な道を辿ってきたんだなと振り返って思いました。私は2010年に国家公務員として働き始め、入局3年目に女性活躍に優れた企業を選定する「なでしこ銘柄」が始まった世代です。それでも当時は、長時間労働をしないと負けると思っていたし、小さな競争に勝たなければと思い込んでいました。すべてを犠牲にして働かないと評価されないんじゃないか、一人前とみなされないんじゃないか、という恐怖があって必死でした。

 

衝撃だったのが、入社当時、男性の先輩から「女性で私大卒は初めてだ」と言われたこと。私大卒の男性はいるのになんで!?って。学生時代まではジェンダーギャップをあまり感じていなかったので、女性であることが不利に働くのかもしれないと感じ取ったとき、男性よりがんばらないといけない、負けられないって気持ちが強くなった。それで、長時間労働の激務を重ねた結果、体調を崩してしまったんですね。

 

その後起業をして、現在3歳の娘と0歳の息子の子育て中なんですが、産後も仕事に集中できているのは、夫がそれぞれ1年間の育休を取得しているからなんですね。男性が家庭に入り、家事育児を分担することで、女性が社会で働く幅が広がる、と実感しています。

 

夫が育休を取ってみて改めて感じるのは、これまで男性が家庭に参入してこなかったことで、家事育児をするうえで逆に差別を受けるというか、生きづらい部分があるということ。たとえば、産後に助産師さんが自宅訪問をしてくれた際、「ママの話を聞きたいので、パパは外に出てもらえませんか」と言われたんですよ。「うちはパパも一緒に育児をしているのでパパの話も聞いてもらえませんか」と返しても「決まりなので」と。育児をするパパも産後うつになるかもしれないのに、社会的なサポートはされない制度設計になっている。そうした点も改善されていくといいな、と思います。

 

浜田: まさに、女性がキャリアロスをしてきたのと同時に、男性は育児の機会ロスをしてきたんですよね。会社の辞令一つで家族が離れて暮らす単身赴任は、日本企業では当たり前ですが、世界的に見たら珍しい。ただここでもコロナ禍による変化があって、たとえばNTTは2022年7月から、グループ社員19万人中3万人を対象に、リモートワークをベースに、日本全国居住地は自由としました。結果、転勤や単身赴任は徐々になくなっていくと思います。

 

日本は深刻な少子化で人口減少により働き手が減っていく中、企業の課題は人材を確保すること。危機感を持った先進的な企業は、働く人たちといかに対等な関係を築き、選ばれる企業になるかに力を注いでいます。そのため、個人が働きやすく結果が出しやすい、より柔軟な働き方が受け入れられるようになってきているんですね。

 

また、ポーラは「男性育休取得100%」を目指すと宣言しています。取締役会で議論をしていたとき、男性役員から「育休を取りたくない人もいるだろうから、自由でいいんじゃないか」と意見があったそうですが、別の男性役員が「いや、必ず取ってもらいましょう」と言ったそうなんです。「組織の中の多様性も大事だけれど、一人の人間の中に多様性があることが大事だから」と。

 

 

仕事と家庭だけでなく、地域社会などさまざまな環境に身を置くことで、一人の人間の中に多様性が生まれる。生活に根ざした視点を得ることで、より人々に求められる商品やサービスのアイデアが生まれ、仕事にも社会にも還元されていく。だから男性には育休を取って、PTAの会長くらいはやってほしいですね。

 

「阿吽の呼吸」が通じる場所の外へ出て、カラフルな世界を見る

 

小林: 一人の人間の中にも多様性があって、組織の中でも一人ひとり多様であるはずなんだけど、日本はなぜか肩書きや役職でモノを言う傾向にあるように感じます。多様な視点よりも肩書きや役職が優先され、議論が活性化せず、イノベーションが生まれにくい。個人の中の多様性、そして組織の中の多様性を担保していくために、できることはありますか?

 

浜田: 私個人の経験にはなるんですが、新卒から50歳になるまで朝日新聞社にいたので、どうしても長く一緒にいると、男女問わず同じ価値観になっていくんですよ。その組織が持つカルチャーやしきたりがありますから。

 

50歳になって、ベンチャー企業に転職しゼロからメディアを立ち上げたとき、それまで関わることのなかった多様な人と一緒に働くようになったんです。伝統的な新聞社出身者だけでなく、テクノロジーメディア、メディア経験のない若い人たちまで。最初は、阿吽の呼吸が通じず、いちいち背景を説明するコミュニケーションコストがかかって面倒だなって思っていたんです。でも途中からものすごく楽しくなった。この視点は私にはないな、私にはこの発想はないな、こういう考え方もあるんだなって。その違いがチームで新しいコンテンツを生む原動力になっていったんですね。

 

正直、朝日新聞社にいたときは頭の中だけで「ダイバーシティが大事」と考えていました。でも転職して、多様な人たちが集まって多様な発想が生まれる面白さを体感し、腹落ちした。だから、組織にいる個人それぞれが、ダイバーシティを体感することが大事だと思うんです。

 

長く同じ企業にいる人は自分から居場所を移してみる。転職をしなくても、副業をしたり、地域活動に参加したり、ボランティア活動や趣味のサークル活動でもいいかもしれません。企業では出向や留職もありますよね。とにかく同じ釜の飯を食った人間じゃない人たちとどっぷり関わってみる。多様性の面倒臭さを超えて面白さを一度体験すると、ホームグラウンドに戻ってきた際に、いかにこれまでモノクロの単一の世界にいたか、目が覚めるような気づきがあると思います。

 

性別や学歴のフィルターを外した人材確保で生まれるイノベーション

 

 

小林: ここからは、参加者からの質問をピックアップしていきます。日本の多くは中小企業です。でも中小企業には、両立支援制度を整える人材も資金力もないと感じます。リモートワークも進んでおらず、女性が活躍できる環境が整っていると思えません。中小企業が抱える課題については、どうお考えでしょうか。

 

浜田: 私は中小企業の取材もしているんですが、大企業より中小企業のほうが、経営層が危機感を持って変革に乗り出せば、変化は速いです。たとえば、仙台銀行は、東日本大震災で融資先が壊滅的な被害を受け、業績が悪化した。頭取の鈴木(隆)さんは、これまでと同じやり方ではダメだと、男性が外回り営業をして女性が内勤で事務を担当するという性別役割分業を崩して、女性にも営業に出てもらうようにしたんです。その結果、男性よりも女性のほうが業績がよかった。今の時代、プッシュ型営業よりも、相手が何に困っているのかを聞き出して寄り添う共感型営業が求められているんだと、鈴木さんは感嘆していました。

 

もう一つ、愛知県瀬戸市にある大橋運輸も危機感から変革を起こしています。物流業界は1990年代の規制緩和により他業種からの参入が増え競争が激化して、廃業も増えた。危機感を持った社長の鍋嶋(洋行)さんは人材の確保を意識して、女性を積極的に採用して安全管理業務にも従事してもらうようにしたんです。結果、丁寧な安全管理で事故率が低下。今では女性管理職も増え、もともと法人運輸が中心だったところから、個人の引っ越しや生前整理・遺品整理にも参入しています。

 

両社とも、資金力があるからではなく危機感から、仕事内容や、採用・昇進の段階での男女比率を変えている。その意味では、中小企業においても、経営層の危機感と変革意識に基づく決断が重要だと考えています。

 

小林: 続いては、学歴フィルターについて。中卒や高卒でも輝く力を持った人がいる中、学歴がないとやりたい職種のスタートラインにも立てない現状があります。こうした現状を変えていくために、どうすればいいと思われますか?

 

浜田: 採用の際、性別や学歴を書く欄を履歴書からなくしたらいいんじゃないでしょうか。ユニリーバは、採用試験で提出する履歴書から、顔写真、ファーストネーム、性別の欄をなくしています。日本IBMは「学歴不問」と言い出していますし、欧米では学歴フィルターは差別だと捉えられます。属性や学歴で判断していては、本当にいい人材を確保できない。先進的な企業ほど、そのことに気づき始めているように感じます。

 

「私なんて」と思わずに。それぞれの場所でチャンスを掴み、一歩を重ねていく

 

小林: 次の質問です。地方から都市へ、女性の人材が流出したまま戻ってこないことについて、何か対策はあるでしょうか。

 

浜田: 女性が都市に出て戻らないのは、やはり地方のほうが性別役割分業が根強いからですよね。いまだに女性にお茶汲みをさせている企業もあるし、地域の自治体役員も男性ばっかり。地方の女性雇用問題に取り組む私の友人は、経営者を集めて意識改革を地道にやっています。その中でも、危機感のある2代目、3代目の若い経営者たちから、変わってきています。女性に魅力的な地域、会社と思ってもらえるように、これまでのやり方、意識を変えていかないといけないと思います。

 

小林: そうですよね。続いて、育児を含むライフステージの変化を考慮して、やりたい仕事よりも時短勤務などの条件を優先して仕事を決めている女性が多いように感じます。やりたいことと働きやすい環境を両立するためにできることはありますか?

 

浜田: 私はライフイベントに入る前に、仕事の面白さを体験することが大事だと思います。今の若い世代は、出産する前から仕事と家庭の両立に不安を抱いていて、会社を選ぶ際も福利厚生や両立支援制度を重視します。もちろん大事な視点だとは思いますが、同時に若いうちから経験を積ませてくれるかどうかを見たほうがいい。若いうちにたくさん経験して人脈とスキルの引き出しを増やしておけば、産後に時間的制約のある働き方になったときに、その蓄積が生きてくる。120%の力でやっていたことが、経験によって70%の力でできるようになるんです。制度がなければ自ら提案・交渉して新たにつくっていくこともできる。だから既存の支援制度よりも、若いうちにチャンスがあるかどうかを会社選びのときに意識してほしいです。

 

小林: なるほどー!最後の質問です。3歳の子を育てながらフルタイムで勤務していますが、独身でバリバリ働いている方のみが昇進する職場環境です。女性の中でも価値観や評価が違う中、職場の制度や雰囲気を変えていくために、一社員としてできることはありますか?

 

浜田: 3歳の子育ては大変なときですよね。うちは娘が16歳で年代によって悩みも変わってきますが、物理的に大変だったのは短かったと感じます。なので今踏ん張って、無理をしすぎずにがんばる姿を後輩に見せてほしい。とはいえがんばりすぎると、後輩たちにプレッシャーを与えてしまうので、あなただけが会社でがんばるんじゃなくて、パートナーがいる場合は、家庭で夫にもがんばってもらってください。家庭で、夫が育休を取ったり時短勤務をして育児に参加することで、夫の職場が変わるかもしれない。それは社会が変わる一歩にもなるのです。

 

小林: 一社員として、という視点が素晴らしいですね。働く中での違和感や、もっとこうしたらいいのにと感じることを押し殺さず、記録に残したり周りに伝えていってほしいなと思います。

 

あっという間にお時間がきてしまいました。私自身、家事育児に追われて自分には能力がないんじゃないか、できないんじゃないかと思い込んで仕事を諦める女性たちと出会ってきました。今回、浜田さんのお話を伺って、女性個人の選択には、社会構造の問題、無意識のバイアスが影響していることをご理解いただけたんじゃないかと思います。

 

浜田: ありがとうございます。みなさん一人ひとりがそれぞれの場所で小さなチャレンジをしていくことが、社会を変えていく原動力になると私は信じています。私なんてと思わずに、ぜひ小さくても一歩を踏み出してもらえたら嬉しいです。

 

text by 徳 瑠里香 illustration by 遠藤光太

 

浜田 敬子さん

ジャーナリスト / 前 Business Insider Japan 統括編集長

1989年に朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。記者として女性の生き方や働く職場の問題、また国際ニュースなどを中心に取材。 米同時多発テロやイラク戦争などは現地にて取材をする。2004年からはAERA副編集長。その後、編集長代理を経て、AERA初の女性編集長に就任。編集長時代は、オンラインメディアとのコラボや、外部のプロデューサーによる「特別編集長号」など新機軸に次々挑戦した。2016年5月より朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして、「働く×子育てのこれからを考える」プロジェクト「WORKO!」や「働き方を考える」シンポジウムなどをプロデュースする。2017年3月末で朝日新聞社退社。2017年4月より世界17カ国に展開するオンライン経済メディアの日本版統括編集長に就任。2021年よりフリーとして活躍中。「羽鳥慎一モーニングショー」や「サンデーモーニング」などのコメンテーターや、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)『男性中心企業の終焉』(10月20日発売予定、文春新書)。

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