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柿の木便り

心身を健やかに保つ「いい眠り」の育み方 〜女性ホルモンと睡眠の関係性〜

 

生理前の寝つきが悪い。更年期を迎えてぐっすり眠れなくなった。妊娠中、昼間にどうしても眠くなってしまう。ぼんやりと「眠り」にまつわる悩みを抱いている人も少なくないと思います。

 

「月単位、そして生涯において変化する女性ホルモンは、睡眠にも影響しているんです」

 

そう教えてくれたのは、「いい眠り」を研究し、その成果をマットレスなどの商品開発に活かす「パラマウントベッド睡眠研究所」のみなさん。

 

睡眠にはどんな効果があるの? 女性ホルモンと眠りの関係性とは? そもそも「いい眠り」って?  眠りの質を向上するには? 今回はそんな「眠り」にまつわる話をお届けします。

 

   

わたしたちの脳と心身とつながる睡眠の効果

 

眠りは毎日のことだから、特別意識したことがない人も多いかもしれません。でも、健やかな心身を保つために、睡眠は重要な役割を果たしています。睡眠はどんな働きをしているのでしょうか。

 

 

(お話を聞かせてくださった、パラマウントベッド睡眠研究所のみなさん)

 

「身体面でいうと、深い眠りに入ったときに成長ホルモンが多く分泌されるので、傷ついた組織の修復に効果があります。紫外線を浴びて傷ついた肌を整える、腰痛などの痛みをやわらげるといったように。逆に睡眠が十分でないと、肌が荒れたり、傷が治りにくかったり、痛みに敏感になったりします。

 

学習面でいえば、睡眠は不要な記憶の消去、記憶の整理と固定を行っています。眠りには段階があって、脳が休息しているノンレム睡眠と脳が活動しているレム睡眠が交互にやってきます。ノンレム睡眠で不要な記憶を消して、レム睡眠で必要な記憶を索引をつけるように整理して、その記憶を固定する。なのでせっかく学習しても、睡眠が不十分だと記憶の整理と固定が十分にされず、忘れちゃうんですね。

 

精神面においても、ノンレム睡眠は精神的なストレスを軽減するために、つらく悲しい記憶を消す働きをしているので、心の安定にもつながります。睡眠不足になると、気持ちが不安定になったり、やる気がなくなったり、うつ病になりやすいと言われています。

 

ほかにも生活面で、睡眠が不足すると、生体リズムが乱れて、食欲が抑えきれなくなり太りやすくなる。集中力が低下して、ミスを起こしがちになることも。また、生活習慣病を引き起こしやすくなりますし、生殖関連では、男性は生殖機能が衰え、女性は流産率が上がると言われています。このように睡眠は、私たちの脳や心身と密接に関係しているんですね」(パラマウントベッド睡眠研究所 主幹研究員 椎野 俊秀さん)

 

 

 

 

揺らぎ続ける女性ホルモンと睡眠の関係性

 

──生理、妊娠・出産、更年期……揺らぐ女性ホルモンと睡眠には、どんな関係性があるのでしょう?

 

「眠りに入る際、深部体温が下がることで、深い眠りについて脳や心身を休ませることができるんですね。生理前の黄体期は、女性ホルモンのプロゲステロンの増加によって基礎体温が高いため、深部体温が下がりにくくなり、眠りが浅くなる傾向にあります。

 

妊娠期も同様、プロゲステロンの働きで深部体温が高く、寝つきが悪く熟睡度が低くなる。そして産後は、新生児の睡眠リズムが形成されていないため3時間ごとに授乳やミルクが必要になりますし、女性ホルモンの分泌量がガクンと一気に下がるので自律神経も乱れて、睡眠リズムも崩れやすい。

 

更年期も、症状の一つであるホットフラッシュは、体温調整がうまくいかず不眠の要因にもなります。また呼吸促進作用のあるプロゲステロンや気道を支える筋肉を保つエストロゲンの減少により、睡眠呼吸障害も起きやすくなる。更年期は、寝つきが悪く、眠りが浅く、不眠に悩む女性が多いです。このように女性ホルモンのバランスの変化は、睡眠にも影響しているんですね」(パラマウントベッド睡眠研究所 塩貝 有里さん)

 

 

──年、月、日、生涯に渡って女性ホルモンが揺らぐ中、睡眠との適切な向き合い方とは?

 

「まずは女性ホルモンと睡眠が影響し合っていることを知っていただけたら。特に妊娠後期はいくら対策してもぐっすり眠るのは困難です。眠れないのはホルモンバランスの乱れや大きなおなかによる圧迫感などによるものなので、悩みすぎたり無理に眠ろうとせず、日中に睡眠不足を補う昼寝をするのもいいと思います。更年期になると不眠に限らずさまざまな症状が出てくると思いますが、長年の生活習慣が積み重なった個人差があると思うので、午前中に外に出て日光を浴びたり、定期的に運動をしたり、ご自身にあったかたちで症状を和らげる対策を探ってみてください」(塩貝さん)

 

「できることとしては、ご自身の“生体リズム”を整えていただくことかと思います。私たちの体には1日周期の体内時計が備わっていて、生体リズムが刻まれています。排泄や自律神経、睡眠や女性ホルモンなど、いくつもの生体リズムが絡み合って存在しているんですね。単独ではなく相互に作用しているので、何か一つが乱れれば全体が乱れていくし、何か一つが整っていけば全体も整っていく。私たちは睡眠を切り口に、生体リズム、女性ホルモンにアプローチして、心身を整えるサポートをしていきたいと考えているんです」(パラマウントベッド 事業戦略部 大槻朋子さん)

 

 

 

いい眠りって? 自分の眠りを評価する

 

──そもそも、女性ホルモンを含む生体リズムを整える、「いい眠り」ってどんなものなのでしょう?

 

「眠りには二つの性質があって、その一つが睡眠も生体リズムの一つで体内時計が働いているので、夜は眠くなり、昼間は眠くならない。もう一つが、睡眠が不足しないと眠くならない、睡眠が不足すると眠くなるという眠りへの欲求です。その性質から導くことができる“いい眠り”は、日中に眠気が来ない睡眠となります。

 

理想の睡眠は、個人差はありますが、睡眠時間が7時間程度、寝つきまでの時間は10分程度で、中途覚醒があったとしてもまたすぐに眠りに入れること。ベッドに入って一瞬でバタンキューで寝てしまう人は、慢性的な睡眠不足の可能性が高いです。一瞬で寝てしまうのは、睡眠不足で眠りへの欲求が異常に高い状態であるからかもしれないので」(椎野さん)

 

──いい眠りによって生体リズムを整えていくために、まずは自分の眠りを知ること。とはいえ自分の眠りの評価をするのは難しいように思います。

 

「自分の眠りを評価するには、睡眠日誌を書くなど主観的なイメージである程度捉えることもできますが、最近は客観的なデータで判断できる機器も出てきているので可能な範囲で利用するとよいと思います。弊社パラマウントベッドでも、『ActiveSleepANALYZER』という睡眠計測センサーや眠りの点数をつけるアプリ(Active Sleep App)を開発しました。マットレスの下に敷いたセンサーで、心拍、呼吸、体動を測って、睡眠時間、睡眠効率(ベッドにいる中でどれくらい寝ていたか)、中途覚醒、寝つき時間、離床回数の5つの項目で眠りを評価しています。たとえば、ある1日の睡眠時間が7時間でも前日が4時間であれば十分な睡眠を継続的にとれているとは言えないので、1日単位ではなく、一週間単位で見ていく必要があるんですね」(椎野さん)

 

 

主観的なイメージと客観的なデータからなる自分の眠りの評価には、男女差があるそう。

 

「パラマウントベッドの睡眠センサーで計測した客観的なデータによれば、4060代の睡眠スコアについては男性より女性の方が平均点は高いんです。でも、アンケートによる主観的なデータでは、男性のほうがよく眠れていると感じている。そのギャップが何からくるのかは解明されていませんが、実はよくある話で、女性のほうが睡眠の質に敏感で、悩みを持っている人が多いのかもしれません」(塩貝さん)

 

 

眠りの質を改善するためにできること

 

最後に、心身の健やかさを保つ「いい眠り」を育むためにできることを教わりました。

 

「眠りの質を改善するポイントが二つありまして、一つ目は寝返りです。寝返りには重要な役割があって、重力の向きを変えることで血行を良くする。それから、体とマットレスの間にこもる熱を逃がして体温調節をする。また、ノンレム睡眠とレム睡眠の睡眠段階の移行をスムーズにするとも言われています。なので寝返りをしやすい環境を整える。具体的には、マットレスの硬さを寝返りしやすい硬さに調整する、幅の広いベッドにする。二つ目は寝心地です。寝心地は数値で測れるものではなく、個人差もあるので、自分の感覚で寝心地が良い寝具を選ぶとよいです」(椎野さん)

 

 

「寝心地には、寝具のみならず、寝室空間の音、香り、光なども含まれます。眠る前にいかにリラックスできる環境をつくるかが大事なんですね。たとえば寝る前に浴びる光は、白い光よりも暖色系の光を。また、香りは女性の方が敏感だと思うので、アロマなどで寝室に眠りを誘導する香りを取り入れることもよいかと。音も432Hz528Hzなど特定の周波数がよいとも聞きます。緊張や不安で末梢の血管が縮こまっていると、手足からの熱放散が妨げられて深部体温が下がりにくく、寝つきが悪くなるので、リラックスできるとよいでしょう」(塩貝さん)

 

「眠る前の行動として、できればお風呂は就寝の1〜2時間前に40度のお湯に浸かる。ゆっくり体温を上げて、深部体温が下がる頃にベッドに入ると眠くなります。食事もできれば就寝3時間前までに済ませられるのが理想ですね。寝酒は、寝つきはよくても、利尿作用から中途覚醒にもつながるので、寝る前にお酒を飲むのは習慣にしないほうがよいです。

 

それから、寝室を『眠る場所』にすることが大事なので、ちゃんと暗く静かな場所にして“夜”にしてください。脳が興奮するスマホは寝室には持ち込まず、眠る1時間前にはやめられるとよいですね。寝室を『眠れない場所』と脳が認識しないように。

 

あと、睡眠は不足しないと眠くならないので、日中に活動をしてエネルギーを使ったほうが眠りやすくなります。昼寝はあくまで応急処置として、夜の睡眠に影響を与えないよう、午後03時の間に1520分にとどめておくとよいです」(椎野さん)

 

 

「とはいえ、すべてを取り入れるのは難しいですよね。私自身、2人の子どもを産んで仕事復帰をした頃、心身がボロボロで睡眠スコアが20点ほどだったんです。椎野から聞いていた睡眠のインプットの中から、できることを試していったら60点をキープできるようになった。生体リズムを整えるために、子どもと一緒に8時に寝て3時に起きるとか、朝太陽の光を浴びるとか。今でもバランスを崩すことはありますが、睡眠スコアが20点だった頃と60点の今では、いざというときの戻す力、回復力が違うんです。100点を目指さなくても、できることを取り入れていって、睡眠の質を改善していくことは、日々の健やかさのベースアップにつながるんじゃないか、と思っています」(大槻さん)

 

いい眠りと自分の眠りを知り、できることから始めてみよう。とても学びの多い時間でした。

 

 

text by 徳 瑠里香  Photo by 川島 彩水

パラマウントベッド睡眠研究所

パラマウントベッド株式会社にて、2009年10月1日に開発部より独立し、睡眠研究の専門部門として設立。主な活動は、睡眠に関する研究および要素技術の開発、睡眠に関する製品の評価、睡眠に関する情報の収集・発信。眠りを科学的視点で裏付け、人々の心地よい睡眠を実現すべく、日々真摯に取り組んでいる。