Web Magazine

柿の木便り

誰にでも訪れる「更年期」。不必要に怖がらずに迎えるために

元気な日もあれば落ち込む日もある。そんな私たちの心とカラダの揺らぎや浮き沈みに影響を及ぼす女性ホルモン。そのバランスが崩れやすいのが、生理や妊娠・出産、そして更年期。
そもそも更年期って? 予防や対策はできるの?
「本当に信じられる情報と、安心できるよりどころ」をコンセプトに、更年期を迎えるオトナの女性に寄り添うメディアとオンライン相談サービスを提供するTRULYのCEO二宮未摩子さんにお話を聞きました。




激しいつわりの経験から、女性ホルモンが乱れる「更年期」に寄り添うサービスを

ー二宮さんはどうして、更年期の課題に取り組むTRULYを始めようと思ったんですか?

二宮: 課題意識が芽生えたきっかけは、私自身が妊娠のときに激しいつわりに襲われたことです。妊娠したのは大手広告代理店に勤める2年目で、当時は妊娠出産についての知識もほとんどなくて。徹夜が3日続くことも当たり前の職場環境だったので、妊娠したら少しは激務から逃れられるんじゃないか、くらいの軽い気持ちでいました。
実際に妊娠したら、想定していなかった吐きつわりに襲われて、会社にも行けなくなってしまったんです。家でできる仕事を割り振ってもらったけど、迷惑かけていることもわかっていたし、申し訳なくて、もどかしくて。結局産休を前倒しして取らせてもらいました。こんなにも早く自分のキャリアが一旦中断されるとは思っていませんでしたね。
同じ職場の先輩だったパートナーは協力的だったけれど、彼が自分にできないことをしていることも癪に触って。知識がなかったがゆえに、女性ホルモンのバランスが崩れる妊娠期がトラウマのようになってしまって、二人目の妊娠・出産は考えられなかったです。



ー妊娠期の経験が、更年期への課題意識へとつながっていったんですね。 二宮: はい。女性ホルモンの威力を目の当たりにして、次に大きく揺れがくるのは、更年期だと。更年期が気になって調べ始めたら、商品広告ベースの不確かな情報に振り回されてしまって、更年期はまだまだ正しい情報やソリューションが少ないことに気づきました。 それで、更年期を体験した人を募集してインタビューをさせてもらったんです。 「仕事や子どもを優先して、わざわざ病院に行くほどでもないと症状を放置していた」 「症状に対して、何科に行けばいいのか、誰に相談していいのか、わからなかった」 「たしかな情報が得られる機会や、愚痴や弱音を吐き出せる場所があったなら」 体験者の方がリアルな悩みや想いを語ってくださって、更年期の課題を解決するサービスが必要だと強く思いました。働く女性が増えて年齢も重ねている今、世の中にとっても大事なテーマになってくるだろうと、事業化を進めました。
ーTRULYでは、どんなサービスを提供しているのでしょうか? 二宮: 女性ホルモンの変化による「更年期、膣ケア、性の悩み」など、閉ざされやすい課題に寄り添い、正しい情報を伝え、チャットで女性医師に質問できるオンライン相談サービスを提供しています。 個人向けには、7つのカテゴリーに分けて、女医が答えるお悩み相談やみなさんの体験談を届けています。寄せられるお悩みは半分以上が更年期。症状に対して「更年期でしょうか」という相談が多いです。

https://truly-japan.com/

法人向けに、産科医・宋美玄先生と一緒に、更年期を中心に働く人をサポートするプランも始めました。社員のヘルスリテラシーを向上するセミナー、動画、記事コンテンツを提供し、個別のチャット相談も受け付けています。 https://www.biz.truly-japan.co.jp/
多くの女性が社会で働き活躍するようになりましたが、50代前後は女性ホルモンが急激に低下し更年期を迎える時期でもあります。女性の約70%が更年期症状によって、管理職昇進に足踏みをしているというデータもあるんですね。


思春期と同じように誰にでも訪れる「更年期」

ーそれほど多くの働く女性が更年期をひとつのハードルとして捉えているんですね。そもそも更年期って、どんなものなのでしょうか?

二宮: 閉経前の5年と閉経後の5年、合わせて10年間が「更年期」と呼ばれています。女性の閉経の平均が50.5歳とされているので、生理が不順となって閉経する45歳〜55歳くらいまでの期間を指しますが、個人差があって、40代前半で閉経する方もいます。
月経を迎える「思春期」と同じように、閉経を迎える「更年期」は誰にでもあるものなんですね。ただ人によっては、さまざまな不調が現れる「更年期症状」が出る人もいますし、日常生活に支障をきたしてしまうほど重度の「更年期障害」に発展してしまう人もいます。




更年期になると、女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少するので、ホルモンバランスが崩れて、月経周期が乱れ、さまざまな不調が心身に現れてきます。卵巣の機能も低下するので、働きが悪くなった卵巣をもっと動かそうと、脳が興奮状態になって、自律神経が刺激されて、症状が現れるんですね。 https://truly-japan.com/articles/14 ただ更年期障害が現れる人は、全体の1割、10人に1人だと言われていて。更年期でもバリバリ仕事をしたり恋愛をしたりしている人も中にはいますし。私自身もそうでしたが、更年期と更年期障害を一緒くたにして、必要以上に怖いと思っている人も少なくないように思います。 ーたしかに、ちゃんと区別がつかないままマイナスイメージを持っていました。更年期は誰にでも訪れる時期であって、症状の程度にも個人差があるんですね。具体的に更年期症状、更年期障害にはどのようなものがあるんでしょうか? 二宮: 更年期症状としては、いわゆる不定愁訴、肩こりや疲れ、頭痛やめまいなどにはじまり、膣が萎縮してしまう、性交痛がある、カーッと汗をかくホットフラッシュなどさまざまです。それらの症状が悪化してしまう更年期障害は、うつ病になる、最悪の場合、自殺に発展してしまうケースもあるようです。 https://truly-japan.com/articles/16 我慢強く責任感が強い女性ほど、カラダの変化によって思うようにできないときに、自分を責めて心もどんどん追い込んでしまうんだと思います。更年期症状、更年期障害はストレスや心の問題にも結びつきやすいんですよ。 ー切り離せない問題ではありますよね。 二宮: TRULYに寄せられる相談も、その多くはパートナーとの関係性、家族間や仕事関係のストレスなど、コミュニケーションや人間関係に紐づいているものが多いです。40〜50代の女性って、高齢出産も増えているので子育て中だったり、仕事でも責任が大きかったり、親の介護をしていたり、ストレスも抱えやすい。 更年期の知識がないから、症状が出ていても気づくまでに時間がかかり、放置してしまい、適切な治療法に結びつかないケースも多いんですね。


自律神経とホルモンバランスを整える、予防と対策




ー自分が更年期だと気づくためにできることはあるんでしょうか? 二宮: 私が大事だと思っているのは、更年期の前の正常な自分のホルモン値を知っておくこと。ホルモン値にも個人差があるので、自分の正常値を知っておけば、減少したときには更年期だと特定できます。現状は、病院で血液検査をするしかないですね。私も最近測ってきたんですが、結構な量の血を取るので、中長期的にはTRULYで簡易なホルモン検査キットの開発販売も進めたいと思っています。 TRULYのサイトにもセルフチェック表がありますが、あくまで目安になります。 https://truly-japan.com/self_checks/1 ー予防や対策はありますか? 自律神経を整えることで、症状を和らげることもできるようです。予防としては、バランスの良い食生活、適度な運動、質の良い睡眠など健康的な生活を心がける。 https://truly-japan.com/articles/17 あとは、たとえばピルを飲んで、日頃からホルモンバランスを整えておいて、年齢を重ねたらピルの配合を変えていくこともできると思います。 対策として私は、更年期になったらホルモンを補充しようと思っています。症状が出て、ホルモン値が正常値より下がっていたら、不足しているホルモンを補う。今は注射だけでなく、副作用が少ない経皮吸収のジェルタイプもあるみたいです。日本では普及していませんが、海外では、ホルモンコントロールは当たり前のように行われているんですよ。ホルモン補充療法(HRT)は、オーストラリアでは6割の女性が利用していて、日本では1%にも満たない。 https://truly-japan.com/articles/24 私個人は西洋医学の科学的なアプローチが好きなんですが、漢方など東洋医学に基づく自然なケアで予防と対策をしていくこともできると思います。TRULYでも今後、更年期の予防・対策として、自律神経を整えるグッズをEコマースで販売する計画もあります。 TRULYに相談を寄せてくださった方にも、症状が出ているなと思ったら、産婦人科を受診することをおすすめしています。心の問題が大きいようであれば、カウンセラーに話を聞いてもらうのもいいと思います。

 

 

 

 

更年期のネガティブなイメージを変えていきたい

ー更年期というテーマに取り組む中で今、どんなことに課題を感じていますか?

二宮: 女性自身の意識としても、周りの目としても、更年期はまだまだタブー視されています。症状は多かれ少なかれ誰でも通る道なのに、女性自身も認めたがらない。
更年期のつらく、暗い、ネガティブなイメージは変えていきたいですね。海外では更年期は「Change of life(人生の転換期)」と呼ばれているくらいですから。
ちゃんと知識を持って、解決策があることがわかれば、不必要に怖がることもなくなると思うんです。そこからパートナーや職場に対しても、どうしてほしいかなどを伝えていけるようにもなるのかなと。

ーそのために今後、やっていきたいことはありますか?

二宮: TRULYで医師監修の正しい情報を伝えつつ、等身大の体験談も届けていく。ご一緒している宋先生も私自身も、これから更年期を迎える年齢です。歳の離れた先輩の意見を聞いて見習うというよりは、今渦中で悩んでいる人たちと、オープンに語りながら一緒に更年期を乗り越えていきたいと思っています。
同時に周囲の人たちの理解も必要だと思っているので、パートナー間で更年期の本質を共有するようなコンテンツや、職場において男性の更年期も含めた相互理解を深めるような啓蒙活動もやっていきたいですね。

 

 

 

text by 徳 瑠里香 photo by 川島彩水

 

 

 

二宮 未摩子さん
TRULY Inc.CEO

2007年に大手広告代理店に入社。営業職として通信キャリア、大手エステティックサロン等を担当。入社3年目の妊娠時働くことが困難なほどの激しいつわりを経験し女性の心と体は女性ホルモンの影響を強く受けることを痛感。職場復帰後、社内の開発部門を経て、女性向けの商品開発プロジェクトを発足。2020年6月、女性の更年期や閉経に寄り添うフェムテックサービス「TRULY」を立ち上げる。現在10歳男児の母。