Web Magazine
柿の木便り
5周年を迎えて。それぞれの「わたしらしさ」に寄り添えるように
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2025年1月10日に5周年を迎えた、デリケートゾーンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」。福島県国見町で育つ植物を主な原料としたケアアイテムを軸に、WEB magazineや小冊子、講座を通して、日々を生きる女性たちが健やかに働き暮らすための知恵を、ともに学びながら届けています。
ありがたいことに、ケアアイテムはこの5年の間に多くのお客さまのもとへ。販売してきた商品数でみると、300%以上※の成長を歩むことができました。昨年はグッドデザイン賞や、福島県知事賞など、栄えある賞をいただくことも。
※2021年〜2023年の販売本数増加率
まだまだ未熟なブランドですが、1日、1年、5年と日々を積み重ねて、少しずつ「わたしたちらしさ」の芽が育っているように思います。わたしたちらしさってなんだろう?──そんな問いを紐解きながら、5年の歩みを振り返ります。
女性を取り巻く社会全体で、ヘルスリテラシーを上げていく
「明日 わたしは柿の木にのぼる」(以下、明日柿)が芽吹いたのは2017年の冬。福島県国見町に魅せられた代表の小林味愛さんは、地域商社「陽と人(ひとびと)」を創業。女性特有の不調を抱えながら昼夜問わず働いた公務員・会社員時代の経験をきっかけに、3年の試行錯誤を重ねて、デリケートゾーンケアアイテムを開発しました。
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「地域に眠る資源を活かして、生産者さんたちの所得向上につなげること。忙しい日々の中で、女性たちがほんの束の間でも、自分の心身を大事にできる時間をつくること。私たちのプロダクトや活動はこのふたつに貢献できるものでありたいと思っているんです」
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その願いは5年が経つ今も変わらず、ブランドの背骨となっています。その願いを軸に、ケアアイテムの開発にとどまらない活動の広がりには、いつもお客さまの声がありました。
「店頭やオンラインストアを通して、一人、また一人とお客さまがデリケートゾーンや心身の不調そして働き方や生き方の悩みを聞かせてくれるようになって。妊娠中で会陰についてのケアを知りたい方や、カンジダに悩む働き盛りの方、更年期を迎えて膣の乾燥に悩む方など、ライフステージごとの悩みも伺いました。そのうちに、私たちは女性自身も女性の心身のしくみを学ぶ機会があまりに少ない、ということに気づいたんです」
お客さまの困りごとに寄り添えるよう、2022年には産婦人科医監修のもと小冊子『はたらく女性の心と身体のFACTBOOK〜未来のわたしに、いまのわたしができること』を刊行。
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2024年にはパラマウントベッドと協働で「更年期の女性の眠りの不調を改善する」実証事業を実施。連動して『更年期HandBook』を制作、眠りを心地よくするアロマスプレーも開発しました。
ほかにも、女性の健康やセルフケアの基礎を学ぶ個人むけの1年間のオリジナル講座「未来のわたしに今のわたしができること」も立ち上げました。
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「働く女性の健康課題は、不確かな情報があふれていたり、エビデンスと言えるほどの調査研究が進んでいなかったり。女性自身も含む、家庭や職場など取り巻く社会全体で、リテラシーを上げていくことが大事だと思っているんです。自分たちにできることは限られているから、専門家や研究機関とタッグを組んで、ヘルスリテラシーを高める場づくりにも取り組んでいます」
企業や自治体を中心に主催する「ヘルスリテラシー講座」の受講者数は5,000人にのぼり、そのうち90%の人が講座により「ヘルスリテラシーが向上した」と回答しています。
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川上から川下まで、自分たちの目と手が届く健やかなものづくり
明日柿のものづくりは、原料となる植物が育つ土壌づくりからはじまります。国見町の農家さんと専門家と勉強会を開き、ミミズや微生物が育つ環境負荷の低い土壌づくりを研究。自分たちで米を育て、土を耕し、生産者さんと関わりながら、原料の品質にこだわっています。
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「原料になる植物が育つ土を触っているブランドはなかなかないと思います(笑)。私たちが届けるアイテムは、女性の身体の繊細な部分に触れるものだからこそ、原料にはこだわりたい。不要なものを入れないシンプルな処方で、蒸留方法も5年の間にアップデートし続けています」
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製造過程では、誰かを犠牲にしない健やかなしくみづくりにも心を砕いています。
「ものをつくる過程で、価格を安くしようとすると、見えないところで誰かが犠牲になってしまう。農家さんから原料を可能な限り安く買い取るとか、工場にロット数に応じた大幅値引き交渉をするとか。原価は高くなってしまうけど、そういうことはやらない。なんていうか、愛がないから。ものづくりが、関わる人たちのウェルビーイングにつながっていてほしい。しくみの中で誰かが犠牲になっていないか、常に目を光らせています」
アロマスプレーの製造は現在、新潟にある障がい者就労施設「特定非営利法人あおぞら」にお願いしています。
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ここでは、蒸留水を山に汲みに行き、人の手で1枚ずつラベルを貼り、人の目で1本ずつ汚れや傷を確認しています。
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「川上から川下まで一貫して、人の温度のあるものづくりをしたいんです」
福島の農家さんのお裾わけを起点に、無理のないやさしさの循環
完成したアイテムは、国見町のオフィスから、自分たちの手で発送しています。創業当初から一人ひとりに手書きのメッセージを添えて。桃や柿、りんごが収穫できる時期、余った果実でジャムやジュースができたときには、お客さまにプレゼントすることもあります。
「福島で生活していると、農家さんたちが日常的に自分たちで育てた果物や野菜をお裾わけしてくれるんですよ。それがあったかくてうれしくて、私たちもお客さまにお裾分けしたいなって。福島の旬の果物は本当に美味しいから食べてほしい。そんな気持ちで、非売品の桃ジャムやりんごジュースをつくって、贈っています」
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(最近は季刊誌「柿の木だより」に手書きのメッセージを添えて同封しています)
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(お客さまに“お裾分け”したりんごジュースと桃ジャム)
ブランドが大事にしていることに、お客さまから共感のお声や、嬉しい応援のお言葉をいただくことも。
「いつも手書きでメッセージを添えてくれて、ほっと穏やかな気持ちになります」
「桃ジャムがとっても美味しかったから、楽しみにしていました!」
「デリケートゾーンケアの使い心地はもちろん、廃棄されてしまう柿の皮の活用や、女性の健康を守りたいというコンセプトに心から賛同します」
「商品と出逢えたことに感謝しています」
「ネットでも買えるけど、会うと元気をもらえて嬉しいから、なるべく直接足を運ぶからね」
「心温まるメッセージに励まされたり、ときには学びをいただいたり。明日柿は、スタッフのチカラだけでここまで歩んでこられたのではなく、お客さまとともに歩んでこられたから今があるのだと、心から感じます」
「人」を真ん中に、柔軟にやり方を変えていくことを惜しまない
たった一人の想いからはじまったブランドも、5年の時を経て、そのあり方に共鳴する仲間が増えました。明日柿に中心的に関わっている3人のスタッフがそれぞれ考えるブランドの「わたしたちらしさ」とは──。
2020年の春に入社した麻美さんは、名古屋を拠点に、催事の店頭に立ち直接お客さまにアイテムを届けています。
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(真鍋 麻美さん)
「店頭では、福島の農家さんやブランドの背景、お客さまや私の不調、アイテムの説明におさまらない話をして、時に一緒に涙を流すこともあるんです。お客さまとこんなにも密なやりとりができるのは、明日柿ならではだと思います。味愛さんが関わる人に愛と信頼を寄せて、女性の健康課題に本気で取り組んでいるから、伝わるのかなと」
同じ時期に入社した成美さんは福島にUターン。国見町で、企業研修サービスの運営や研究・統計解析などを担っています。
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(阿部 成美さん)
「福島で味愛さんは農家さんの隣で土を触って、お茶をすすって、心の扉を開いている。原料の生産者さんがオフィスに直接アイテムを買いに来て、愛用してくれているんです。ここまでつくり手の想いがまっすぐ入ったアイテムはほかにないんじゃないか、と思うほどです」
2024年の夏に入社して半年、東京でオンラインショップの運営を担う桃子さんは、ブランドのあり方に驚く日々なのだとか。
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(須藤 桃子さん)
「味愛さんは協働する企業の社史を読み込んだり、よりよい蒸留方法を探ったり、その姿は研究者のようです。企業というより、限りなく“人”に近いブランド。ものづくりへの真摯な姿勢をぶらさずに5周年を迎え、すごい、というより、かえがたいと自社ながら思っています」
名古屋、福島、東京を拠点にする3人のスタッフが揃って口にするのが、場所も時間も柔軟な働きやすさ。
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(真ん中:小林 味愛さん)
「需要がない制度をつくっても意味がないから、リモートワークもフレックス制も、入社してくれる人ありきで、状況に応じて制度を変えています。
アイテムの製造方法もスタッフの働き方も、完璧なものはないから、お客さまや関わる人の声を聞きながら、時代の流れ、社会や自分たちの状況に応じて、柔軟によりよいやり方を見つけていくことは惜しみません」(味愛さん)
こうありたい、こういう社会で生きたい。そんな「願い」が「わたしたちらしさ」をつくっているのかもしれません。これからも「わたしたちらしさ」を大切に、それぞれの「わたしらしさ」に寄り添えるブランドでありたいです。
text by 徳 瑠里香