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「なんとなく体調が優れない」そんな心とカラダの不調に寄り添ってくれる東洋医学って?(前編)

なんとなく体調が優れない。なんだかだるい。頭痛に生理痛、肩こりに腰痛、冷えや便秘。病院にいくほどじゃないけどなんとかしたい。

そんな心とカラダの不調に寄り添ってくれる「東洋医学」。

そもそも東洋医学ってどんなもの? どんなアプローチで治療をしていくの?

鍼灸マッサージ師でアロマセラピスト、女性のための健康医療研究グループ 天使のたまご代表の藤原亜季さんに教えてもらいました。

 

病気じゃないけど不調を感じる「未病」を治す東洋医学

 

 そもそも東洋医学ってどういうものなのでしょうか。西洋医学との違いは?

 

藤原: 「なんとなくしんどい」「頭が重い」「疲れやすい」「カラダが冷える」……。女性の生き方が多様化し、ストレスが多いと言われる現代社会のなかで、そんなふうに感じる人は少なくないと思います。

みなさんが、病気や怪我などで訪れる一般的な病院は、西洋医学が主流となっています。

西洋医学では、患者さんから訴えがあるものの検査をしても原因が見つからない場合は診断ができず、多くの「不定愁訴(ふていしゅうそ)」については、病気ではないとのことから治療ができないのが現状です。東洋医学は、その、まだ病気にはなっていないけれど調子が悪い「未病」の治療を得意とするんですね。

考え方やアプローチにどんな違いがあるのですか?

 

藤原:    東洋医学ではまず、「心とカラダがつながっている」と考えます。病は”気”から、ということですね。ストレスなどで“気”が乱れると、カラダのあらゆる巡りが悪くなって、カラダのいろんなところに不調が現れる。肩こりなどの血行不良から、イライラなどの精神症状まで。

東洋医学の治療は、不調が生じた場所だけでなく、その人の心とカラダの状態、全体像を見て、どこにその原因があるのかを探り、統合的なアプローチをしていくんですね。

その原因を探るものさしにもなる大事な要素が「気・血・水(き・けつ・すい)」。東洋医学では、この3つがカラダを構成していて、そのバランスが整っていれば「健康」、そのうちのどれかが不足したり滞ったりすると「不調」が現れると考えます。

対して西洋医学では約60兆個の細胞がカラダを構成していて、患者の訴えをもとにその個別の臓器や細胞に焦点を当ていきます。レントゲンや血液検査をして科学的・客観的なデータをもとに診断し、カラダの細部を主として治療していく。

なんとなく体調が優れなくて病院に行ったけれどこれといった異常はみつからず、医師に「気のせいですよ」「気にしなくていいですよ」と言われたら、鍼灸院を訪ねてみるといいですよ。西洋医学で原因不明であっても、東洋医学では生まれ持った体質や生活習慣に原因があると考えて治療していくので、抱えている不定愁訴を解決できる可能性が高いんです。

 

両方のアプローチを知っていると、不調を感じたときにより心強いですね。

 

藤原: ズームアウトの視点の東洋医学とズームインの視点の西洋医学は全く違うアプローチだけれど、患者さんを治したいという気持ちは同じです。なので、両者の良いところを補い合っていこうという良いとこどりの「統合医療」の動きがスタンダードになりつつあります。

特に、産婦人科領域においては、患者さんの生活習慣やストレスの影響が出やすく、不定愁訴も多いので、東洋医学との親和性が高いんですね。さらに、妊娠中や産後の授乳中は安易に薬が飲めない時期なので、漢方や鍼灸など、東洋医学の治療法が役に立つことが多いんです。

肩こりや腰痛などの局所治療も行うけれど、その人の全体を把握した上で、心とカラダのバランスを整えて、自然治癒力を高め、体質を改善する根本治療を行っていくのが、東洋医学です。

 

カラダを構成する「気・血・水」って、どんな働きをしているの?

 

なんとなくイメージはできるのですが、東洋医学でいう「気・血・水」ってどんなものですか?

 

藤原: 「気」は、人間が活動するのに必要な生命のエネルギーのこと。体力のようなものですね。体を成長させる、内臓を動かす、体温を保つ、免疫作用、老廃物を排出するといった働きがあります。

「血」は、西洋医学の血液とは少し概念が違って、カラダに栄養を運んで潤す働きと、心の安定を保つ働きを担うもの。

「水」は、唾液、汗、涙など、血液以外の身体の水分のこと。身体全体を循環して潤して、体温調整をサポートし、カラダの動きを円滑にする働きがあります。

気・血・水はそれぞれ単独で働いているのではなく、お互いに影響しあっているので、何か一つが過剰だったり不足していたり、そのバランスが崩れていくと不調が現れてくるんですね。

東洋医学では、気・血・水の3つのうち、何が不足しているか、何が滞っているかで、不調の原因やその人のそのときの体質をみていきます。

 

・気が不足している「気虚(ききょ)」⇆気が滞っている「気滞(きたい)」

・血が不足している「血虚(けっきょ)」⇆血が滞っている「瘀血(おけつ)」

・水が不足している「水虚(すいきょ)」⇆水が滞っている「痰湿(たんしつ)」


それぞれどんな症状が出るのでしょう?

 

藤原: 気が足りない「気虚」の人はいつもだるくて疲れやすく、風邪も引きやすく治りにくい。気が滞っている「気滞」の人は、緊張感が強くつい頑張りすぎてしまって、イライラを感じやすくなります。

体力がそれぞれ違うように、気は生まれ持ってきたもので、人によって違うんですね。ただ、食事や運動など、生活の中で後天的に補っていくことができます。東洋医学の治療では、気が足りない人は、季節のものや栄養バランスの良い食べ物を摂ったり、ツボにお灸をして、気を補っていきます。気滞の方は、鍼が効きやすいタイプですし、ネギやニラなどの香味野菜などでカラダの巡りを良くするといいですよ。

血が足りない「血虚」の人はめまいや立ちくらみが起きるだけでなく、不安を感じたり不眠になります。血が滞る「瘀血」になると、血行不良で肩こりや腰痛が出やすい。冷えやすい方は、血のトラブルが起きやすいので要注意です。血の巡りは、生理不順や生理痛などにも関係してきますよ。血虚の方は、夜早めに就寝するように心がけ、目の使いすぎには気をつけましょう。

水が足りない「水虚」になると、髪や肌がパサついたり、便秘にもなりやすい。水の巡りや排出が滞ってしまう「痰湿」は、吹き出物ができやすくなったり、カラダがむくみやすくなります。治療としては、鍼(はり)やマッサージで水の流れを促して、利尿作用や代謝を良くしていきます。漢方もよく効きますね。

 

見て、聞いて、嗅いで、触って。体質や状況に合わせたオーダーメイドの治療を

 

どういった流れで、診断・治療をしていくのでしょうか。

 

藤原: 東洋医学では、「四診」といって、4つの診断方法でその人の心とカラダの状態をみていきます。顔色や姿勢、舌の状態などを目で見る「望診」、声の調子や呼吸音を聞き、においを嗅ぐ「聞診」、生活状況や痛みなどについて話を聞く「問診」、脈の速さや深さ、お腹の状態を触れて確認する「切診」の4つです。あらゆる方向からその人の心とカラダの全体を捉えて、気・血・水の流れから、「証」を立てて、心とカラダを整える治療を行っていきます。

たとえば、頭痛があったときに、西洋医学であれば頭痛薬を処方しますよね。一方、東洋医学では、同じ頭痛でも、どんな痛みかによって証が異なるんです。ぼわーんっていう鈍痛であれば「気」が足りない「気虚」という証を立てて、気を補う。差し込むような痛みであれば、血の巡りが悪い「瘀血」という証を立てて、血の巡りを良くしていく。このように一つの症状(主訴)に対して、どういう原因で起こっているかを診断(弁証)して、治療をしていくんですね。

治療に関しては、身体のどのツボ(経穴)を使うか、気・血・水が流れる通路(経絡)はどこを使うか、鍼、お灸、マッサージ、どの手段(術)にするかを決めて、アプローチしていきます。その術も、気の巡りが滞っている方には鍼、カラダが冷えている方にはお灸、水の巡りが滞っている方にはマッサージと、身体の状態によって変わってくるんですね。私たちが運営している女性専用の鍼灸サロン「天使のたまご」では、アロマセラピーも掛け合わせて、一人ひとりオーダーメイドの治療を行なっています。

 

ちなみに漢方って、どういうメカニズムで効き目があるものなんですか?

 

藤原: もともと西洋医学の薬も漢方がベースでつくられているんですね。漢方薬は自然の植物や鉱石などを乾燥したり炒ったりした生薬を配合したもの。科学的な分析も進んではいるけれど、基本的には、自然の植物が持つ力が体内に吸収され全体を巡って、自然治癒力を高め、全身のバランスを整える働きがあるというのが東洋医学の考え方です。漢方薬を飲むことで、足りない気・血・水を補い滞りをなくし、全身の巡りを良くしていくことができます。

 

なるほど。漢方を飲みたいと思ったらどうすればいいんでしょう?

 

今は婦人科やクリニックでも保険適用で処方してくれるところが増えています。漢方外来もありますし、近所で通えそうなところを調べてみると良いと思います。漢方は西洋の薬と違って即効性があるものもありますが、緩やかに効いていくものも多いです。胃腸が弱い人は漢方薬が効きにくいので、普段の生活の中でツボを押したりお灸をしたりとセルフケアで免疫力をあげて、合わせて胃腸を整えておくと良いでしょう。

 

(後編へつづく)

 

text by 徳瑠里香  Illustration by 遠藤光太

藤原 亜季 さん

「女性のための健康医療研究グループ天使のたまご」代表。1978年京都府生まれ。自らの妊娠・出産を機に、2006年、東京・銀座に妊婦専門治療院を「天使のたまご」を開設。そして40才を超えてから不妊治療を経て15年ぶりの妊娠。産後にプロデュースしたマタニティケアを自ら堪能中!東洋医学とアロマセラピーを融合したメンタリティに配慮した独自のメソッド゙で、妊娠しやすい心と身体づくり、 妊娠中のマイナートラブルの解消、そして産後のケアまで、女性の健康と美容をトータルにサポート。マタニティケアの第一人者として臨床に携わる傍ら、学術研究や講師活動、妊婦や子ども専用の商品企画および開発、テレビや雑誌などメディアなどでも広く活躍している。

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