WEB MAGAZINE

ヘルスリテラシーの向上が、女性が活躍できる社会をつくる【日本政策医療機構マネージャー今村優子さん Interview(後編)】

2020.11.12

デリケートゾーンから知る、わたしの心とカラダ

生理、PMS、出産、更年期……。個人差はあるものの女性には、日々の生活、年齢を重ねる中で、心とカラダが揺らぐタイミングがあります。でも、男性と同じ環境で働く中で、見過ごさざるを得ないことも。

 

「女性に関するヘルスリテラシーの高さが、仕事のパフォーマンスの高さに関連する」

 

2018年、日本医療政策機構の女性の健康プロジェクトチームがこんな提言をしました。

 

ヘルスリテラシーってどんなもの? 女性自身、そして社会は、どうやってヘルスリテラシーを向上させていけばいいの?

 

8年間の助産師、イギリス留学を経て、日本医療政策機構で「働く女性の健康増進」をテーマに調査・政策提言をする今村優子さんと考えていきます。

(前編からの続き)

 

ヘルスリテラシーの高さが仕事のパフォーマンスにも影響する

 

 

イギリスから日本に戻られて、日本医療政策機構ではどんなことをされているのですか?

 

今村: 私たちは医療政策のシンクタンクなので、様々な医療課題に関して調査研究や産官学民のマルチステークホルダーの専門家による議論をもとに政策提言書を作成し、それをもとにアドボカシー活動をしています。その中でも私が担当しているのが「働く女性の健康増進」です。

 

具体的にどんな調査、提案をされているのでしょう?

 

今村: 2018年に働く女性2000人を対象にしたアンケートを行って、ヘルスリテラシーと女性の健康や仕事、医療へのアクセスとの関連性を調査しました。私たちはヘルスリテラシーを「女性が健康を促進し維持するため、必要な情報にアクセスし、理解し、活用していくための能力」と定義しています。

 

女性特有の疾患の予防と早期発見するために開発された「成熟期女性のヘルスリテラシー尺度」というものがあるのですが、それを使って、女性の健康情報の選択と実践、月経セルフケア、女性のカラダに関する知識、パートナーとの性相談の4つの項目についてヘルスリテラシーを測りました。

 

 

調査結果としては、女性に関するヘルスリテラシーの高さが、仕事のパフォーマンスの高さ、望んだ時期に妊娠することや不妊治療の機会を失うことがなかったことに関連することがわかりました。また、ヘルスリテラシーの高い人は、女性特有の症状があった時に対処できる割合も高いです。

 

働く女性の健康増進調査2018

 

この調査結果をもって、私たちは国や教育機関、企業、医療機関に、女性がヘルスリテラシーを高めるための機会を増やす施策を提案しています。よかったのは、経済産業省が社員の健康管理に取り組む企業を評価する「健康経営銘柄」を選定する際の必須要件に、女性の健康に関する項目を追記したことですね。以前は男性の健康に関するものが多く、女性に関することはほとんどなかったので、1歩踏み出せたって思っています。

 

大学生が自分の性と健康について学べる環境づくりを

 

たしかに、生きている中でヘルスリテラシーを身につける機会は少ないようにも感じます。たまたまの出会いや環境、個人の意識や経験によってしまうような・・・。

 

今村: 女性のヘルスリテラシーを高める社会の仕組みや支援は十分とは言えない状況ですよね。最近は、小中学校や高等学校で、性教育にも力を入れていこうという動きも高まっています。一方で、企業の人事担当者を集めたセミナーで女性の健康の取り組みの重要性について講演したときなど、学校教育の中でできないの?という声も少なからずありますし、女性たちも社会に出る前に知りたかったと言います。そこで私たちは、教育課程の中でも一番自分ごと化しやすい時期の大学教育の中での健康と性にまつわるプログラム構築をし、調査研究を実施しました。

 

すばらしいですね!それはどんな内容なのですか?

 

今村: 3つの大学で理解のある先生の講義の枠をお借りして、230名を対象にリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)にまつわる講義を実施したんですね。

 

現役の助産師が教壇に立って、性感染症や性暴力、性的同意、思いがけない妊娠やアフターピル、女性ホルモンや月経といった性に関することと、出産、産後、育児といったライフプランに関することをテーマに講義をしました。女子学生だけでなく男子学生も一緒に参加してもらったのですが、すごく好評で。「講義を受けてよかった」「知らないまま社会に出るのは怖いことだと思った」「彼氏にも受けさせたい」といった感想をたくさんもらいました。

 

授業の後に取ったアンケートで、約97%の大学生がこうした講義が必要だと思うと回答してくれました。その結果をもって、私たちは国や大学にリプロダクティブヘルスに関する健康教育プログラムの導入の働きかけをしています。

 

大学生の包括的健康プログラムの構築と効果測定調査 2020

 

まずは知ることから。情報格差を健康格差にしないために

 

その授業、受けたいです……!すでに社会に出てしまった私たち大人はどのようにして学べばいいのでしょう?

 

今村: そうですよね。社会の体制が整うまでは、自ら学んでいくしかないと思うのですが、インターネットにはたくさんの情報が溢れています。情報を探すときは、上から順ではなくて、出典がしっかり明記されているものを選んでください。

 

情報源としては国や自治体が運営しているものも結構わかりやすいです。たとえば、女性のカラダと健康にまつわることは、厚生労働省の「ヘルスケアラボ」。性感染症に関しては、「東京都性感染症ナビ」がおすすめです。まずはこういったWEBサイトを訪ねて、自ら情報収集してみると良いと思います。

 

見てみます!ヘルスリテラシーとして、最低限身につけておいたほうがいいことはありますか?

 

今村: まずは自分の生理の量と痛み、PMSと更年期に関することでしょうか。というのもやっぱり、それらを放っておくことは子宮内膜症など不妊の要因にもなりますし、職場や家庭でのパフォーマンスにも影響してきます。病院に勤めていたとき、1ヶ月に1回どうしてもイライラして子どもを叩いてしまうことがあるという相談を受けたことがありました。症状や月経周期を丁寧に確認していくとPMSの一つの症状だったのですが、原因を知ることで対処もできるはずです。

 

とはいえ、女性が独自に学んでいくのは限界がありますし、このままでは情報格差が健康格差につながってしまいます。すべての女性が、性と健康に関する情報や必要な医療にアクセスできる社会にしたいです。生きている間に……!

 

 

(おわり)

text by 徳 瑠里香 photo by 根津 千尋

 

今村優子さん

日本医療政策機構マネージャー

総合周産期母子医療センター愛育病院、育良クリニック等にて、助産師として8年間、妊娠期・分娩期・産褥期の多くの女性のケアにあたる。臨床経験を通じ、女性の妊娠や出産に関する国レベルの政策策定を学ぶ必要性を感じ、イギリスへ留学。シェフィールド大学にて公衆衛生学修士課程修了(MPH: Master of Public Health)。大学院卒業後、2017年2月より日本医療政策機構に参画。また、日本医療政策機構以外にも、日本助産師会の国際委員会委員、大学の非常勤講師、自治体での育児相談、クリニックでのオンライン両親学級等を行っている。2018年度 第22回村松志保子助産師顕彰会 精励賞受賞。

PAGE TOP